現在、新年度から始まる次期科学技術基本計画が策定中で、「案」が公表され12月13日までが「ご意見承り期間」でした(我らが井村前総長が科学技術会議で策定にあたる部会長)。 この案に対する理学部の方の意見を、当人の了解の下に掲載します。
公表されている「科学技術基本計画案」については、計量基準について言及するなど大いに評価したいところもたくさんあるのですが、 特に若手研究者の問題について認識が甘いように思われますので、下記のような意見を認めました。
若手の養成の問題、特にポスドクを終えて職のないオーバーポスドクについて、もっと配慮をお願いしたい。
今回の案では、先の計画でポスドクについて「・・・期間終了後の進路等に課題が残った」(P. 7)とするものの、それに対する有効な処方箋が見えてこない。 任期制などの流動化策は、それだけでは新たにポストを生み出すものではない。 民間企業に「採用に積極的に取り組むことが期待される」(P. 23)「採用に積極的に取り組むことを期待する」(P. 26)だけでは、問題は解決しない。
今回の計画の中では、「行政・企業等への派遣」(P. 20)が、オーバーポスドク問題に対し何とか期待の持てる案かもしれない。
しかしそれでいったいどれほどのポスドクを吸収できると考えているのか? その具体的な数字の裏づけを示して欲しい。もしできないなら、過大な科学技術への投資はやめるべきだ。
わたしはかって、オーバードクター問題の深刻な時代を経験した。 尊敬する先輩が将来に希望を失って、妻子を残して自ら命を絶ったのは、今も痛切な思い出である。
どうか昨年の学術審議会の「知的存在感のある国」答申のように、 「(10年後に博士の)供給側が18,000人弱、需要側が12,000~13,000」(=毎年5,000人以上の失業者の計画的量産!)といった無責任きわまる将来展望のもと、 学問・科学技術を担う人の生き様・生活を忘れ、「資金の配分」にうつつを抜かすような計画にはしないで欲しい。
日本の学問・科学技術の健全な将来のためには、数値目標として「50年間にノーベル賞受賞者30人程度」(P. 4)ではなく、 もっとその“裾野”に注目した「科学技術者の30%が学位を持つ」といったものを掲げるべきではないか。 そしてそのための方策に、もっと意を注いで欲しい。そうすれば人を「使う」のではなく「育てる」方向に、状況は動いていくことだろう。