アルコル第2号 2001年1月30日

報道によれば、政府は、かって中曽根首相の時代に掲げた留学生10万人計画の旗を再び立てようとしているようです。 この問題に関わって、理学部で留学生問題を担当しておられる、前中央執行委員の登谷さんから一文をいただきました。


留学生数の増減から見えること

理学部留学生担当教員 登谷 美穂子

1.留学生10万人受け入れ計画

ALCOR02_A

日本の留学生受け入れ政策は、1983年(殆ど20年前)に時の総理(中曽根)が、21世紀までには留学生の受け入れ数も先進国並に10万人を目標とする、と設定したことにそのすべてがある。 当時は、図1に示されているように、留学生総数は1万人にすぎなかった。 10万人の根拠は、当時フランスの留学生数が10万人だったので、フランス並みにということだったそうだ。 総留学生数の1割程度を国費留学生として奨学金を支給し、日本留学の呼び水にするという方針をとり、図1に見られるように1983年は約2,000名だった国費留学生数は、2000年には約9,000人に増えている。 しかし、このグラフから見る限り、留学生総数の増減と国費留学生数には相関が見られない。 むしろ、私費留学生数が圧倒的に多いのでこれと強い相関が見られるのは当たり前であろう。

この増減は、むしろ日本の経済状況に強く関係している。 90年代前半にバブルがはじけ、後半は不況の真っ直中で今なお続いている。 留学するには、きょう思いついて明日というわけにはいかない。時間差が2年ほどある。 そうすると、94,95年をピークに総数が減ってきているのはまさに経済不況に因るものだろう。 しかし、97年を底にまた総数は上昇している。 特に、昨年の増加は、過去最高を記している。 前年からの増加分の内訳をみると、中国からの留学生数が77%を占めている。 これは中国側の何らかの国情の変化によるもので、一般的な増加傾向と見なすにはまだ早いと考えられる。


2.10万人達成度

21世紀に突入した今、果たして10万人計画の目標値は達せられているのか、あるいはどの程度かという興味から、マスコミでもその数が論ぜられているのが現状である。 答から先に言えば、図1にも示したように、2000年5月1日現在、留学生総数は過去最高の64,011人であるが、目標値の10万人にはまだ遠い。 しかし、数値目標だけをたて、留学生受け入れに対する何の施策もない状況では増えない方が自然でしょうといわざるをえない。 あるいは、何もしなくてもこれだけ増えたのだから立派だと言うべきかもしれない。

実際、入学大学は来日後にしか決められない、宿舎は殆ど民間、奨学金はないというのが8~9割の留学生の現状である。 アジアの学生達が留学を考えるとき、やはりまず西洋諸国に留学を希望し、次が日本だそうである。 全国の高等教育関係の留学担当者が集まる機会があるが、そこでたとえば韓国からの留学希望の状況はどうかという話を韓国の関係者から直接聞いたりすることがある。 その時は、韓国の大学にも入学できないような学生が日本に留学しているという報告だった。 また、どうしたら留学生を増やすことができるかとうことが議題になる。 そこでいつも私は、留学生が増えることの一番の要因は、日本に来て勉強あるいは研究する魅力があるということでしょうといいたくなる。

アジア諸国では、学部教育は自分の国ですぐできるようになるだろう。 その次は、先進国に留学する動機は、研究目的である。 しかし、経済不況を乗り切る政策もみえず、国立大学は独法化で研究5ヶ年計画を文部科学省に出して予算を獲得するなどということを考えている高等教育・研究の方針では、 留学したくなくなるのも当たり前ではないか。 日本の高等教育を受けている学生数は約300万人である。 そのうちの、たかが10万人の留学生数をみても、国の基本的な施策の重要性は如実に表れていることを関係者は受け止めるべきだと思う。


アルコル表紙に帰る