アルコル第3号 2001年2月27日

一昨年、1999年7月に「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(PRTR法(環境省)あるいは化学物質管理促進法(経済産業省))が公布されました。 この法律に基づいて、(1)特定の化学物質の排出量等の届出の義務付け(PRTR制度。環境省の管轄)と (2)製造者による化学物質安全性データシートの交付の義務付け(MSDS。経産省の管轄)が行われるようになり、 この4月からPRTR制度がスタートします(MSDSはすでに1月1日からスタート)。PRTR制度は、

(A)事業者(含「高等教育機関」)に化学物質の排出量・移動量を把握させて、都道府県経由で国に届出させ、
(B)国は国民からの請求に基づいて、個別事業所の情報を開示する。

という仕組みになっています。ですから京大の近くのマンションに住む人から「最近体調が悪いが、京大からトルエンなどを垂れ流していないか」という問い合わせがあれば、 国はそのデータを公表する義務があるわけです。 そして「届出をせず、又は虚偽の届出をした者」には「二十万円以下の過料」という罰則が課されます (http://www.env.go.jp/chemi/prtr/risk0.html あるいはhttp://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/low/index.html も参照)。この問題について、環境保全センターの真島さんから一文を寄稿いただきました。


PRTRについて

環境保全センタ-  真島敏行

今年の京都大学新年会名刺交換会において、総長のお話でまず第一に掲げられた言葉が『環境』であったと聞いている。 20世紀が産業の発展の世紀とすれば、21世紀は反省の世紀といえようか。

PRTRとは Pollutant Release and Transfer Register の頭文字であり、この法律を通称PRTR法と呼んでいる。 正式には「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」という長い名前の法律である。 PRTRという言葉は環境関係の者なら一度ならず耳にしているが、昨年京大の理科系教官何人かにに聞いてみると知らない人もいた。 聞いたことはあってもよく分からない人も多い。 しかし、文科系ならいざ知らず、今や化学実験をする人に理解されていないでは済まされなくなってきた。 というのも、この4月から京都大学にもかかわってくるからである。

◇◇◇ PRTR=環境汚染物質排出・移動登録

PRTRをより短く表現すると環境汚染物質排出・移動登録といわれている。 具体的には、化学物質の使用量とそれらの移動量を報告することであり、このPRTR法は平成12年3月から施行されているが、平成14年度から排出量等を国へ報告することとなっている。 そのためには平成13年度から、PRTR対象物質の購入量と、環境への排出量や廃棄物の移動量を把握する必要がある。 学内でも、今年に入って各部局長宛てに環境保全センタ-長と施設部長名で調査書を配布しているところである。 いずれにしろ、耳新しく理解しにくい法律なので次に簡単に箇条書きしてみる。

目的:事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止する。
対象者:従業員数21人以上、化学物質の年間取扱量は1t以上取り扱う事業所
第一種指定化学物質:有害性、ばく露性が高いもので354種類に使用量・移動量の報告が必要である。(対象物質:フランスの36種類から、米国の650種類まで国によってさまざま)
○金属類は金属重量に換算する。
○水分等は除き、含有率が1%以上のもの
裾切り基準:化学物質により500kg/年以上のものと、1,000kg/年以上のものに分かれる。
第二種:第一種指定化学物質と有害性の程度は同じであるが、環境中への排出される可能性の低いもの。81 種類あるがPRTRの対象外である。
化学物質安全シ-ト(MSDS):第一種、第二種指定化学物質共、受け渡しの際、相手方に対して当該化学物質の性状および取扱いに関する情報。

◇◇◇ 少量多品種を扱う大学で

我が国で生産・使用されている化学物質数は、5万種類といわれているが、そのうちの435種類をPRTRの対象物質としている。 その割合は小さいものであるが、これまで記録にとどめていないほとんどの者にとってはやっかいな作業とうつるようである。 ことに少量多品種を扱うことの多い大学関係者にとってはなおさらである。 購入量の把握も経理の手続きなどでやっかいな問題があるようだが、移動や廃棄する時の記録をとるということになるとさらにわずらわしいものである。 また、有機溶剤のように揮発性のものの正確な量の把握は非常に困難であり、当初は不満の声が聞こえそうである。

◇◇◇ 皆さん方の理解と環境教育の充実を

しかしながら、公害から環境汚染に神経をとがらせなければいけない時代となっている今日、PRTRを行うことにより、 化学物質の自主管理、リスク管理、適性管理、総合管理を各事業者が行い、また使用量の削減計画にも結びつくことが期待されている。 国および地方公共団体はそれらの寄せられた資料を公表し、参考にして事業者への技術的助言や国民理解増進の支援に役立てようとしている。

PRTR制度は環境保全を進めるにあたってひとつの対抗措置である。 それは分かっても、忙しい研究者が多く、学生の入れ替わりのはげしい京都大学でこの主旨がどこまで浸透し、いつごろ満足のいくデ-タがそろうか心配である。 1月末の調査では取扱量の多い5品目に限ってスタートしたようであるが、今後その数が増えるにつれて煩雑になることは否めないであろう。 関係者の皆さん方の理解はもちろん、環境保全センタ-等の関与する環境教育の充実も求められている。 より快適な生活を望む我々にとって課せられた使命と受け取るべきかもしれない。


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