いちょう No. 97-10 97.10.23.

息を潜めたかに見えた大学の民営化論が、ここに来て復活しました。今度は、昨年までの「教育研究への重点投資 → 地方大学の自治体移管・民営化」といった話から、「できるところから民営化 → 東大・京大から民営化」という話に切り替わっての登場。京大は、矢面に立たされたことになります。この1週間の動きと、その背景をまとめてみました。


大学の独立行政法人化の動き再び

「東大・京大なら、エージェンシーでやっていける」 ――――――――

政府の行政改革会議(以下、行革会議)で、先月ほぼ見送りということになったと思われた国立大学の独立行政法人(エージェンシー)化(いちょうNo. 97-8参照)ですが、ここに来て、再び情勢は混沌としてきました。

表に現れた動きをいうと、政府の行革会議の水野事務局長が国立大学の行政法人化についての試案(「東大、京大の独立行政法人化について」 )をまとめ(10月15日)、さらに自民党の行政改革推進本部(以下、行革本部)が、国立大学の組織形態の変更(=民営化、独立法人化)の本格的検討に入ることを宣言しました(10月16日)。いわば、行革会議の内外呼応しての動きです。昨年の段階では、「旧帝大は国立で残すが、地方大学は民営化」といった形で議論され、地方大学から「それでは地方大学はやっていけない」と抗議の声が上がっていました。それがここに来て、急遽、「旧帝大なら大丈夫」「旧帝大からエージェンシー」という線で事態が動きはじめたわけです。

東大・京大当局の機敏な対応 ――――――――

この動きに対する、東大およびわれらが井村総長の対応は機敏でした。10月16日に、東大の蓮見学長は、臨時部局長会議を開いて東大当局として反対する方針を決め、町村文部大臣と会見、「独立行政法人反対」で共同歩調を取ることを確認します。翌17日の午前、京大でも臨時部局長会議が招集され、井村総長は記者会見に臨みました。記者会見で総長は「教育や研究の改革は、短期の財政事情からの観点ではなく、長期にわたるビジョンに基づいて行われるべきだ。さらに、現在の国立大学には自己資金が乏しく、法人化はもとより、施設の老朽化など負の遺産の解消すらままならない」などと述べ、独立行政法人化を強く批判したようです。(この熱意、行動力を、先の「任期制」の国会審議の時に発揮していただいておれば!!京大広報の10月号に国立大学協会の「任期制」についての要望がようやく掲載されましたが、法律の呼称さえまちがえていて(いちょうNo. 97-8)、熱意のほどを疑わせるに十分な代物です。)

学内の「エージェンシー化推進論」 ――――――――

今回の民営化の動きは、突然に噴出した感がありますが、これまですでに、水面下でいろんな動きが合ったようです。私立大学はもとより、国立大学でも、大学病院などを中心に、かなり組織立った民営化積極推進の声が出ていた(る)ようです。東大医学部はこの3月8日の教授会で、「エージェンシー化を事実上支持」(日経)する“大学の自己責任体制の確立”を謳った大学改革案を決定しました。京大病院でも、この7月の病院広報に、前産科婦人科長、前検査部長が、互いに色合いは違いますが、揃って京大病院の民営化推進を訴える寄稿をして、話題になりました。こうした動きを捉えてか、行政改革会議の「企画・制度問題及び機構問題合同小委員会」(9月24日)の議事概要には、「研究機関については、予算執行の弾力化等の観点から、独立行政法人化について前向きなところがあるように聞いているが、こういうところが独立行政法人化に手を挙げるのではないかとの意見」が記録されています。

政治的な力関係の中で ――――――――

自民党の行革本部が、このような挙に出た背景には、郵政事業の民営化をめぐる議論に対する、カウンターパンチという構図が窺えます。郵政事業については、世論は国営維持に傾いていますが、マスコミ(前の小選挙区制導入でも活躍した読売新聞の社主は、行革会議の有力メンバー。政府機関の独立行政法人化案を立案)は圧倒的に民営化推進です。こうした中で、行革本部としては、政府の行革会議に対して、「国立大学を聖域にしておいて、郵政事業ばかりやり玉に挙げるとは...」というボールを投げたわけです。そしてそれを受ける、行革会議の政府側も、「このままでは、何も切れない、減らせない」という思いがあったのでしょう。そうしてしかけられたのが、今回の行革会議の内外呼応しての攻勢ではなかったでしょうか。そうとでも解釈しなければ、このあまりのタイミングのよさ(“預け金問題”での新聞報道も含めて)は理解しがたいように思われます。

郵政事業のような、郵便局と銀行・金融業界という巨人同士の戦いとはちがって、国立大学の場合には、私立大学との緊張はあるものの、単純な力関係では、政治的な取り引き材料にされかねない立場にあります。マスコミの中には「族」批判をさかんに鳴らす向きもありますが、これは容易に「(学)閥」批判に転じかねない要素を含んでいます。井村総長の任期切れ間近の奮闘は、大いに注目されます。


水野行革会議事務局長の提案 (「東大、京大の独立行政法人化について(案)」)は以下の通り:

東京大学、京都大学を他の国立大学に先んじて独立行政法人とすることを提案したい。

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