いちょう No. 99-1 99.8.30.

国立大学の独立行政法人化をめぐる動きが急です。今回のいちょうでは、さる8月26日、職組本部で行われた岡田知弘さん(前京大職組委員長)の話などをもとに、この間の一連の動きを少しまとめてお知らせします。


国立大学の独立行政法人化をめぐって


独立行政法人とは??

今となってはこと遠い話のように思われますが、3年前、時の橋本総理大臣は「6つの改革」を旗印に掲げ、行政改革に関わってさまざまな施策を展開しました。その中心にあった考えは、「企画立案」部門と「実施」部門を分離し「アウトソーシング(“外部委託”)」を進めようということでした。そしてそのための具体的な制度として、イギリスのエージェンシーという制度にならう形で、「独立行政法人」というアイデアが出てきました。

独立行政法人というのは、法人格を持った公的サービスを行う機関です。行政改革会議(行革会議。橋本行革のエンジンとなった組織。現在の有馬文部大臣はそのメンバーの一人)の設計した独立行政法人制度は、さまざまな政治的な駆け引きの中で変更を加えられ、「中央省庁等改革基本法」(昨年6月成立)で制度の概要が、「独立行政法人通則法」(今年7月成立)でその詳細が確定しました。

独立行政法人は、道路公団などいわゆる特殊法人と似ていますが、資本金を持ち企業会計原則(いわゆる単年度会計などをとらない)をとるなどの自由度を持つ反面、3~5年の中期計画に基づいて「評価」が義務付けられるといった点で大きな縛りがかかる存在です。お役所仕事の効率の悪さを、財政・人事に自由度を与えて克服し、放漫経営で評判の悪い「特殊法人」「公益法人」に、中期計画に基づく「評価」の網をかぶせたようなものといえましょうか。「『官』と『民』のよいとこどり」を目指しているわけですが、「悪いとこどり」になるおそれもあり、また「現業」にはよいかもしれませんが「考える場」でもある大学にはなじまない制度のようです。

労働関係については、国家公務員型(「特定独立行政法人」と称される類型。もっともこの「特定」のタイプが、現在予定される独立行政法人の大部分を占めます)をとらないならばストライキ権が保証され、また教員の兼業もOKということになります。国家公務員型なら、現状とほとんど何も変わらないようです。

独立行政法人化とたたかう文部省

【独立行政法人化、最初の衝突 ―― 97.10~98.7】

国立大学の独立行政法人化は、国立大学の「民営化・公立化」を進めようとする議論の中で語られてきました。橋本行革の初期には、地方国立大学の民営化、地方自治体への移管・第3セクター化が真剣に議論されていたことをご記憶の方もあるかとおられます(ですから大学審議会が一昨年1月に出した「平成12年以降の高等教育の将来構想について」[97.1.29]の中では“地方の論理”が強く出されています)。それが独立行政法人の制度の設計が進む中で、「東大・京大から独立行政法人に」という行革会議の事務局長の提案が出され[97.10.15]、事態が急展開します。

この事務局長提案から日をおかず、東大・京大では臨時の評議会が召集されて反対の意志表明がなされ、尾池前理学部長もホームページ上で、反対論を展開されました(いちょう No. 97-10[97.10.23])。文部省サイドでは、当時の町村文部大臣が大学審議会に、答申のやり直しを諮問します[97.10.31]。この時に準備された文部省の独立行政法人化への対案が、昨年、鳴り物入りで出された「21世紀の大学像と今後の改革方策について」[98.10.26]という答申でした。文部省はこの答申、そして答申の中味を先取りして昨年4月に大幅改定した「教育改革プログラム」を手に、「独立行政法人化阻止」で動きました。こうした動きはそれなりに実を結び、昨年6月に成立した「中央省庁等改革基本法」では、国立大学については「必要な改革を推進する」といった記述に止まりました。

【“公務員削減競争”の中で ―― 98.8~99.1】

しかし昨年8月、小渕首相が就任の際の公約として、「改革基本法」では10%だったのを一気に上積みして、「公務員20%削減」を打ち出してから、事態はまた緊迫してきました。昨年8月、ヒアリングの中で文部省は大学病院と共同利用機関を独立行政法人の検討対象にすることを呑み、さらに「平成15年まで」という年限を付けて国立大学の独立行政法人化を検討することを約束することで、昨年秋に何とか事態を収拾しました。

しかしその後、いわゆる自民党と自由党の間の「自自合意」で公務員削減は上積みされ、今年1月の「中央省庁等改革推進本部」の「中央省庁等改革に係る大綱」(4月27日に閣議決定。7月にこれに基づく諸法が成立)では、「公務員25%削減」が謳われ、2001年から独立行政法人化する機関として、初めて大学共同利用機関から大学入試センターが入ることになりました。

加速する独立行政法人化の動き

何とか行革の風がやむまでと、文部省は大学審議会の「21世紀の大学像」答申片手に時間かせぎに汲々とし、それなりに成功したかに見えていたのですが、ここにきて国立大学の独立行政法人化へ向けた議論が一挙に高まってきました(日誌参照)。「独立行政法人化させないためにこれを呑みなさい」と、「運営諮問会議」や「評価機関」の設置など進めてきた文部省も、どうやら態度を一変させたようです。その背景は、次の4つに整理できるでしょう

【公務員25% 削減】

まず第1に挙げるべきは公務員削減計画とのすり合わせです。2003年に結果を先送りしたとはいうものの、公務員削減(最低10%。独立行政法人移行で25%)は2000年12月31日の定員をもとに行われます。それには2001年度概算要求時点(=来年夏)には、身の振りをはっきりしておかねばなりません。6月1日に発表された藤田東北大教授の論文「国立大学と独立行政法人制度」は、文部省サイドの悠長な対応に警鐘を鳴らすべくかかれた論文のようです。

【文部大臣の首】

かなりドロドロした話ですが、現在の有馬文部大臣の首がどこまでつながるかも、重要な要素になっているようです。今秋の自民党総裁選挙の後、自自公連立政権ということになれば、文部大臣の交代は必至と見られています。そこで「任期中に何とか」という大臣の意向を汲む形で、圧力がかかっているというのです[読売、日経]。

【国大協の「条件闘争」】

国立大学自体が国立学校特別会計の維持など、独立行政法人化に対し「条件闘争」に入りつつあります。国立大学協会(国大協)は、「独立行政法人化反対」を捨てたわけではありませんが、独立行政法人になった場合の問題点の検討に重心が移ったことは否定できません[日経8.27]。

【独立行政法人化待望論】

最後に大学内外の独立行政法人化、あるいは独立行政法人化では飽き足らなく思っている人たちの存在です。たとえば首相のブレーンである経済戦略会議が2月に取りまとめた答申では「独立行政法人化は将来の民営化へのステップ」という扱いになっています。さらに民主党が先ほどまとめた「政権政策」[8.24]では、「国立大学の民営化」が公然と謳われています。

そして国民のための大学の理念は・・・

めまぐるしい政治的な動きですが、事態は大まかに言って「民営派」と「独立行政法人派」の2派の対立関係に収束していく雲行きにあるようです。こうした雲行きを読んで、賢く立ち回るのも大事でしょうが、そういう中で忘れられがちな論点をわれわれとしてはもっと強く主張していく必要があるでしょう。

【公務員削減は何のため】

現在行われようとしている公務員の25% 削減は、せり上げられていった経緯からも明らかに、公務のあり方を検討した上でなされたものではありません。さらに25% 削減という数字は、国立大学の半分を独立行政法人化すれば達成できてしまう数字です。「質」の点でも「量」の点でも疑問の多い、今の公務員削減計画が本当に国民のためになるのか?そうした視点からの議論がもっと必要です。

【独立行政法人の仕組みと大学】

独立行政法人という枠の中で、いろいろ特例法を作ってうまくやっていこうというアプローチは、結局のところ妥協を重ねていかざるをえないでしょう。独立行政法人は「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業」(中央省庁等改革基本法)を対象としています。大学にはこうしたサービス機関としての面もありますが、元来「なぜ生きるのか」といった、もっと根源的なものと向き合う場ではなかったでしょうか。そうした面を捨てたとき、大学は大学でなくなるといってもよいのではないでしょうか。

【大学の自治はどこへ・・・】

今の大学の自治制度の問題点については、すでにいろいろ指摘されてきています。京大の第3キャンパスをめぐる最近の一連のできごとは、改めて大学の意思決定のあり方を考えさせるできごとでした。けれども「従業員投票で社長を決める会社がどこにある」といった単純な発想から、学長の選挙制度を変えるような話が、「民営化(独立行政法人化)論に対抗するには・・・」といった形で、導入されかねない空気は危険です。「大学がなぜ大学なのか」という原点を見すえた大学の自治をめぐる議論が、もっと展開されるべきでしょう。


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