いちょう No. 99-26 00.6.15.

さる6月13日、衆議院選挙が告示され、現在選挙戦が闘われています。この時期に開催された国立大学協会の総会も気になるところですが、今回のいちょうでは、各政党の選挙政策から、国立大学に関わるものを、特に設置形態に関わって、鋭意、調査検討した結果を紹介します。


各党の国立大学に関わる選挙公約を見る

――― 衆議院選挙に当たって ―――

「行政改革」の後退する中での選挙

今回の選挙で「国立大学のリストラ」「国立大学の独立行政法人化」といったことを前面に掲げて選挙を戦おうとする政党は見当たりません。もっといえば、“行政改革”を前面に押し立てているのは保守党ぐらいです。例の「公務員25%削減」を明記してあるのは、保守党の選挙公約だけ。自民党の公約には見当たりません。

独立行政法人化についても、非常に冷めた空気が支配的なようで、自民党の公約には、「既定の方針に沿って着実に進める」とあるのみ。行政スリム化の切り札のようにもてはやされたのが嘘のよう。「不景気なときに、これ以上公務員にやつ当たりしても・・・」という空気とでもいえましょうか。

与党3党のスタンス ――― 「抜本的な改革」と私学への目配り

与党3党(自民党、公明党・改革クラブ、保守党)で、明確な大学政策があるわけではありませんが、共通項としては、私学への目配りの大きさが指摘できるでしょう。与党3党が5月19日に合意した基本政策の中には

初等中等教育と高等教育について、それぞれの制度と教育内容を見直し、抜本的な改革を行います。その中において、私学の役割を強化します。

と明記されています。「私学の役割の強化」は、与党3党のそれぞれの公約に入っていますが、中でも公明党の「重点政策」の中にはかなり、踏み込んだ記述が見られます。

・・・義務教育にも競争原理を導入し、民間の小中学校を多数設立していくことが重要です。国立大学や国立病院なども検討を急ぐ必要があります。

ほとんど「国立大学民営化論」ともいえるかもしれません。

なお自民党の政務調査会は、5月に「これからの国立大学の在り方について」という提言をまとめましたが、選挙政策には国立大学の設置形態、独立行政法人化にまで踏み込んだ記述はありません。自民党の選挙政策には「学術研究を、科学技術創造立国を目指すわが国の『未来への先行投資』と位置付け」て、「公共投資としての学術研究」が前面に出ています。選挙目当てとはいえ、何ともやるせないところです。

野党 民主党 ――― 公立化・民営化を含めあり方を抜本的に見直す

民主党が1月に発表した政策では、「国立大学を民営化・公立化する」(国立大学は少数の大学院大学に限定)さらに“機関補助から個人補助へ”(助成金を学生数に応じて各大学に配分)、というかなりドラスティックな政策を掲げていました。それが選挙本番となると、トーンが下がって先ほど発表された「15の挑戦と110の提案」では

国立大学については、その公立化・民営化を含めて検討し、そのあり方を抜本的に見直します。

という程度になっています。しかし独立行政法人といったいわば中間的な策ではなく、さらに踏み込んだ変革を志向していることは確かでしょう。

もっと大学の現実、人間と学問のありように根ざしたビジョンを・・・

今の国立大学の在りように満足している人はほとんどいないでしょう。公共事業にたかるゼネコンが問題になったりしますが、率直に言って、大学の先生たちがそれ以上のものだったでしょうか?ここ8年ばかり、「産官学共同」を謳い文句に、実際には「官学共同」が急速に進展しました(「2000年版科学技術指標」によると、現在大学の受け入れる外部資金の7割強は政府から)。「先進諸国なみの高等教育研究投資」を言う前に、そうした問題が正面から議論されるべき時にきているように思われます。

今のところ、他の比較的大き目の野党、共産党、社民党などは、明確な大学政策を出していないようです。「学問の自由」を念頭においたとき、政治の場で大学のあり方をいたずらにあげつらうのは、好ましいこととは思えません。しかし巨大与党と野党第1党、いずれもが外部からの国立大学の「抜本的」な改革を唱えている時、理学部に身を置くものとしては、大学のあり方について、もっと人間と学問に根ざした内在的な議論が、どこからか放たれることを期待したいものです。


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