前回の行政措置要求運動から10年余り。現在、男女差別の是正へ向けて、再び行政措置要求の取り組みが行われようとしています。今回の行政措置要求の取り組みについて、職組の女性部長、数研の河野さんから寄稿いただきました。
女性部は「婦人部」の名称の時代から、長年に亙り行政職(一)女性職員の昇級・昇格のおくれについて取り組んでいます。この長い取り組みの中で、12年前、日教組大学部(現在の全大教の前身)が全国的に組織して行った行政措置要求の運動は、エポック・メーキングなものでした。この行政措置要求で、大学における男女差別の問題がクローズアップされ、その後、女性の掛長が誕生するなど、京大における女性職員の処遇は大きく改善されました。この前進をさらに確実なものとするために、女性部(婦人部)では女性職員の大部分を占める「教室・研究室系」職員の処遇の問題をとりあげたワーキンググループを創り、アンケート調査、教研集会などでの討議を行い、職員組合の当局交渉の際には常に「男女格差是正」の要求項目を出し続けて来ました。また、国公女性協(国家公務員労働組合連合会女性協議会)の近畿人事院交渉にも常に大学女性職員問題を議題に挙げ続けてきました。そして昨年度「女性部」への名称変更の機に、討議の結果、従来のワーキンググループを「昇級・昇格ワーキンググループ」に模様替えして、その中で教室・研究室系はもとより、ライン制の事務での男女格差についても一緒に取り上げて行くことになりました。
こうした運動にも関わらず、その後の事態の推移は余り芳しいものではありませんでした。井村前総長は京大職員の6級退職を当然のことと請合ってくださいましたが、今年6月現在での40才以上の事務職員の役職別の構成は下図に見るようなものです。これでは女性の6級退職(=掛長以上相当)はとうてい実現できません。
京都大学の40才以上の事務職員の男女別役職者比(40才以上の女性職員の平均年齢52才、男性51才) |
大学内では、女性部(婦人部)が要求してきた女性部独自の総務部長交渉さらには総務部長会見すら、大学当局の容れる所となっていません。人事院との関係で言えば、10年以上にわたる国公女性協の人事院交渉の中で、人事院の側から、
「ポストの配分など人事院としてできるだけのことはしており、後は行政措置要求しかない」
と言われています。また昨今の均等法や男女共同参画基本法などにうたわれる差別是正の特別措置*を利用することも考えられましたが、これについては人事院自身「公務職場での扱いは検討中」というありさまです。わずかな可能性を求めて、女性部では人事院公平局へ、今春「苦情処理相談」を行いました。しかし結果は、人事院からの指導を受けて、京都大学人事課長から「大学における給与制度について」の説明があったにとどまりました。そしてその席での追求に対して、人事課長は何と
「格差是正の具体的運用施策はもちあわせていない」
という回答でした。
行政措置要求という、いわば最後の手段に踏み切るには、種々の資料の作成の労力もさることながら、上司との関係、要求が退けられた場合の不利益など考えると、措置要求の前面に立つ人の負担は大変なものです。さらに措置要求にともなって人事異動がストップし、多くの人に迷惑をかける可能性も考えておかねばなりません。しかし先に述べた状況を踏まえ、ワーキンググループの討議の中では、当局交渉と並行して、行政措置要求も出していこうとの意見が強く出され、組合として行政措置要求を出していく方向で検討を重ねました。
女性部常任委員会ではワーキンググループの意見を受けて行政措置要求をバックアップすることを決め、昨年度中央執行委員会に組合として出すことの承認を得、去る7月6日付で2名の行政措置要求を提出しました。それを受け、今年度中央執行委員会で、「行政措置要求委員会」を調査部のもとに設置することが決まり、「女性部昇任・昇格ワーキンググループ」との協力で事を進めることになりました。
しかし措置要求した2名のうち、提訴後5級に昇格した人に対して、退職まで1年しかないことなどから、その後人事院から取り下げるよう指示がありました。そこでワーキンググループや、女性部常任ブロック担当を通じて新たに、行政措置要求を出すサンプルとなるような職員を募り、新たに2人加えて、最終的には3人の女性職員をサンプルとして先月10月15日付けで、行政措置要求書を送付しました。
なお取り下げた1名については、ワーキンググループもバックアップして人事院と折衝し、本人が人事院と直接電話で話もしたのですが、平行線のままでなんら解決の糸口を見いだせず、別途、方策を追求していくことにしています。
当然のこととはいえ、こうした行政措置要求の動きを、当局は快く思っていません。最近のことですが、人事課長サイドから行政措置要求するについて事前の相談がなかったというので、「組合との信頼関係」を盾に、こわ談判とも言うべき申し入れもありました。しかしそうした中で明らかになったのは、何とこの7月の人事課長の異動に当たって、先に職組の行った措置要求提出の通告について引き継ぎがなされていないという、当局のお粗末な対応でした。女性職員のおかれている境遇に対するここまでの無関心ぶりを発揮してくれる当局者に、「組合との信頼関係」を云々する資格があるのでしょうか。まず当局の側から、これまでの女性職員に対する差別的な仕打ちに対し誠意を持った対応を準備し、「信頼関係」の醸成に努めるべきではないでしょうか。
21世紀の経済構造として財界が目している10%の企画立案部門(安定雇用者層)と残り90%の実施部門(様々な形態の期間雇用者)の労働市場構造のながれに呼応して、公務員においても行革推進本部のいう25%定員削減達成後は、本省庁の企画立案部門とその他実施部門にわかれようとしています。国立大学は実施部門に分類され、その形態はいま独立行政法人化へと圧力をかけられています。大学の中での様々な雇用形態の女性職員の問題は、この流れの中で、ますます複雑化していこうとしていますが、憲法で保障された人としての生活を守る視点から、あらゆる手段を駆使して、それぞれの立場を理解し、互いに力を出しあって、協力して行きましょう。