文部省の矢野会計課長は、来年度の文部省の科学技術関連予算では、①科学研究費が 1000億円の大台に乗ったこと、②学術振興会に“未来開拓”が期待される分野への 110件110億円の研究プロジェクト(大学主導で推進)を新規に付けたこと(他に科学技術庁などにも同趣旨の公募制の研究制度が導入された)、③「ポスドク1万人計画」1) が軌道に乗ったことを、特筆すべきこととして挙げています。このポスドク1万人計画とも関って、文部省の新年度予算で、院生(特に博士後期課程)に対する、いくつかの注目すべき施策があります。文教ニュース(1月8・15日合併号など)などの記事を総合すると、次のようなものがあります。
Ⅱ.「研究支援推進経費」が新規に計上され、リサーチアシスタント(RA)制度が導入されます。この規模などまだ詳細は不明(概算要求段階では、23億円)ですが、「博士課程後期の院生を、研究補助者として雇用して経済的に支援し、かつ研究遂行能力の育成を図る」ためのもののようです。
Ⅲ.各種研究プロジェクトに博士課程修了者を非常勤研究員として雇用する制度。
こうした施策については、科学技術基本法(いちょう1月25日号参照)が追い風となっている2) ようです。なお、RAには、他に、RAシニアというものが置かれるようですが、こちらは定年退職した技官を雇いあげるための制度のようで、全国で10人程度の枠しかないようです。
まだ情報が断片的で、詳細は不明(例えば、Ⅲの非常勤研究員と、学術振興会の特別研究員とのちがいなど)ですが、これらの計画が具体的に走り出すと、ティーチングアシスタントの導入以上に、院生の格付け(TA院生、RA院生、特別研究員院生、非常勤研究員オーバードクター(OD)3) など)、RAをテコにした優秀な院生の教室・研究室単位での囲いこみ、などなど、現場でのさまざまな混乱が予想されます。またこれは、博士課程後期課程を有する大学院、特に重点化した大学院の優遇策であり、他の修士課程しか持たない大学院(西村副委員長の言を借りれば「マスプロ大学院」)からの反発もあるでしょう。われわれとしても、この構想に十分注意を払う必要があるように思います。
また気になる点として、「研究支援推進経費」であるにも関わらず、研究支援職員であるはずの、技官についての記述が見られません。これはなぜでしょうか?実際、文書からは「研究支援」について、博士後期課程の院生、ODへの期待は伺えても、技官については期待されていないように見えます。あるいは専門行政職移行の問題が、絡んでいるのかもしれませんが、明らかではありません。
2) 科学技術基本法 によると、
第11条 国は、科学技術の進展等に対応した研究開発を推進するため、大学院における教育研究の充実その他の研究者等の確保、養成及び資質の向上に必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、研究者等の職務がその重要性にふさわしい魅力あるものとなるよう、研究者等の適切な処遇の確保に必要な施策を講ずるものとする。
3 国は、研究開発に係る支援のための人材が研究開発の円滑な推進にとって不可欠であることにかんがみ、その確保、養成及び資質の向上並びにその途切な処遇の確保を図るため、前二項に規定する施策に準じて施策を講ずるものとする。
3) オーバードクター(OD) =博士課程を終えても職のない人々。かって、京大理学部は「OD問題のメッカ」とささやかれた時代があった。これからの大学院膨張に関連して、増大が懸念されている。