ようやくに、お約束の百武彗星の話をお届けすることができることになりました。支部長が、なかなか捕まらないわけもわかります。
1月31日に百武さんが発見された彗星(C/1996B2)は、まさしく“彗星のごとく”あらわれ、3月25日に地球に最接近(地球太陽間の5分の1)し、南半球に去るといった早足でした。周期は数万年で、太陽系遠くを囲む“オールトの雲”から飛来したものと考えられています。京都では、私の教室の福永さんの定年歓送会の3月26日、会場の庭の灯を消してもらって見ました。残念ながら曇り空でしたが、雲間に明るいぼうっとした光芒を見ることができました。当教室の冨田良雄氏が宇物屋上にてCCDカメラを用いて4月2日に撮影した百武彗星の素顔を写真にて紹介します。
さて私は近年、国立天文台堂平観測所91cm鏡(埼玉県)を用いて恒星、星間物質の偏光観測を実施しています。これは恒星周囲のプラズマや、星間空間にある塵により光が散乱される時、光の振動面に偏り(偏光)が生じることを利用して、散乱する物質そのものの性質を調べるためです。私自身は太陽系天体の専門家ではありませんが、せっかくのチャンスということで“汚れた雪だるま”(彗星)による光の散乱を共同で観測することになりました。特に3月下旬~4月初旬の最接近時は、夜間長く観測できることもあり、あらかじめ決められていた共同利用観測プログラムを差替え、彗星専用期間とすることに合意、数チームが順番につめました。私自身は3月19日~25日、4月4日~6日と観測に出かけました。観測計画としては、①地球の近くを通過することから、太陽-彗星-地球のなす角度(位相角)が 30゚ ~ 110゚ と大きく変わることを利用して、偏光度の位相角による変化、②最接近時には大きく見えることから、場所による偏光の違い、③明るい恒星上を通過する時には、恒星の光の減少の度合を観測し、光学的な彗星の厚さを推定、としました。いずれも彗星の物性を調べるのが目的です。
上記の観測はいずれも実施でき、現在整理中です。最接近の頃は1等星より明るく見え、肉眼でも彗星のしっぽを見ることができました。特にモニターカメラではしっぽが鮮やかに見え、「なるほどこれがコメットか」と、実感した次第です。彗星は天空上を動き、特に最接近時は速く動くため(百武彗星の場合、南北に10度以上)、望遠鏡での追尾には一工夫も二工夫も必要でした。①の観測は暫定的解析から判断して、精度もよく、最大偏光度は 25% に達し、塵の多い高偏光の彗星に属すること(ハレー彗星と同じ)、偏光度の最大値は単純な理屈では位相角90度であるべきなのに、それより大きい位相角で最大値をとりそうなこと、がわかっています。少しは彗星の論文書きの経験もありますが、何分専門外のこととて、色々勉強、文献調べが当分続きそうです。
1996年4月2日 百武彗星(京大宇物屋上にて) ノクトニッコール 58 mm F1.2 + V バンドフィルター クックブックCCDカメラ 10 秒露出×60フレーム 10 分積分 写野 4.7゚×6.3゚ |