いちょう No. 99-16 99.12.9.

99年11月、「大学教官の勤務の在り方に関する研究会」の報告が出され、教官の勤務については「原則として出退勤の管理を行わない」という裁量労働制の導入(“出勤簿”はもういらない!?)が謳われています。また勤務時間に止まらず、兼業の可能性や雇用形態にも言及するなど、独立行政法人化の動きもにらんだ時、注意すべき論点が出されています。この報告について、匿名でコメントを寄せていただいておりますので紹介します。


「大学教官の勤務の在り方に関する研究会報告」を読む

先にいちょうでも少し紹介されていたが、人事院総裁の下に作られた「大学教官の勤務の在り方に関する研究会」の報告を読む機会をえたので、筆者の感想も交え、内容を紹介する。

勤務時間管理の現状―――――――――――――――――

まず筆者も含め、たとえ組合員といえども、教員の勤務時間が「表向き」いかに管理されているかを知っている方は多くないであろう。この文書によれば教員の勤務時間は、「一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律」で決まっていて、どんな日時、時間帯に働くかは、文部大臣(あるいはその委任を受けた機関の長)が、勤務時間を週40時間になるように割り振っているのだという(そういえば5コマ目の授業のある時はどうするとかいう紙が回ってきていた気もする)。そして何と、割り振られた勤務時間中に働いていなかったら、減給や「職務専念義務違反」という目に会うらしい!

みなさんは自分に割り振られた勤務時間をご存知だろうか?前もって決めたスケジュールで研究が進むようなら、苦労のない話。また学生が何だかんだと聞きに来た時、「割り振り時間外です」といって門前払いを食わせるようなら、教師失格であろう。こんなことでは仕事にならないし、現にたいていの人は、自分にあったリズムで仕事をこなしているはずだと思う。

“裁量みなし労働”制の提案―――――――――――――――

こうした事情がこの報告書では認識され、

ことを提言している。これは実のところ現場で実践されているものを追認して、“出勤簿”をなくし、たぶん誰かが行っている不毛な勤務時間の管理業務をなくそうというわけなので、大いに歓迎したい。余分に働いた分の「超過勤務手当」なんぞも欲しいところだが、好きにやらせてくれるのだから、文句は言わない。

教員の身分をどうするか?―――――――――――――――――

こうしたうれしい話は、たいてい裏があるもの。この研究会は大学教員の“社会奉仕”を促そうというのがそもそもの目的なので、勤務時間の話はあくまで“見せ金”らしい。この報告が本当に問題にしたいのは、今後検討するべきこととして最後に書いてある、

なのだろう。

この②の点は少し説明が必要だろう。世界的に見ると国立(州立)大学であることは、必ずしも教員が “公務員”であることを意味しない。英米系の国立(州立)大学では、大学と教員の関係は法人である大学との契約で決まっており、公務員ではない(たとえば夏休み期間の給料が出なかったりする)。実際、今回のような勤務時間制度を導入したら、「そんないい加減な勤務をしている連中が公務員でよいのか?」という問題はすぐ出てくるだろう。

この委員会は人事院総裁の下に置かれた私的なものだが、この報告が出て2週間後、11月30日政府は閣議で、限定つきながら国立大学教員の兼業を認めることを決めた。委員会のメンバーには国大協の第1常置委員会委員長、読売の論説副委員長、経団連の経済調査部長も入っていて(全大教から委員は入っていない)、かなり影響力のある委員会と見たほうがよさそうである。独立行政法人化の議論が盛んだが、こうした身分問題もきちんと考えておかないと、何かと戸惑うことになろう。


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