いちょう No. 95-14 95.12.21.

さる12月8日、福井県敦賀市にある高速増殖炉「もんじゅ」で深刻な事故が発生しました。私事ながら、研究室の棚に長く鎮座していた古い金属ナトリウムを 100 g ほど処理するのに、半日、悪戦苦闘したことを思い出しながらニュースを聞きました(もんじゅで漏れたのはこの 10000 倍!)。今回のいちょうでは、もんじゅの問題についていろいろ取り組んでこられた、物理の山田耕作さんに寄稿いただくことができました。


今こそもんじゅの廃炉を実現しよう

物理第1教室 山田耕作

12月8日夕刻、高速増殖炉もんじゅで数トンのナトリウムが漏れ、火災が発生するという重大事故が発生しました。今回の事故ではナトリウムと空気が激しく反応するスプレー火災により、1千℃に達したところもあり、金属性の空調ダクト(通気管)が融け大きな穴が開きました。鉄製の足場が融けていたと言われていますが、もし、床に敷かれている鉄板ライナー(覆い)が融けていたら、床下のコンクリートの水分とナトリウムが反応し、水素爆発や大火災の危険性がありました。強い放射能をもつ1次系配管や炉芯の重大事故に発展する可能性があったのです。にもかかわらず、福井県も憤慨しているように、動力炉・核燃料開発事業団(動燃)はすぐにもんじゅを停止させることをしなかったのです。

高速増殖炉とは?

通常の軽水炉原発はウランに 0.7% しか含まれていないウラン235を燃料とし、水で中性子の速度を遅くし、核分裂の反応度を高め、この高温高圧の水から水蒸気を作り、タービンを回して発電します。しかし、このようなウラン235のみを利用していたのでは、エネルギー資源として少なく、逆に放射性廃棄物を残し、石油に代わるエネルギーにはなりません。そこで燃えないウラン238に中性子を当てて燃えるプルトニウムに変えると、60倍もウランが利用できる夢の原子炉と宣伝され、開発されたのが高速増殖炉です。もともと、高速増殖炉は長崎に落とされた原爆の原料であるプルトニウムを生産するためのものだったのです。

以上の目的のため高速増殖炉はプルトニウムを燃料とし、発生した中性子を高速のまま燃料の周りに置い たウラン238に当てます。そのため、中性子を減速せず、熱を伝える軽い液体として液体ナトリウムを利用します。直接原子炉を冷やすナトリウムの流れを1次系と言い、そのナトリウムで2次系のナトリウムを熱し、そのナトリウムで水を熱し、水蒸気を発生し発電するのが高速増殖炉の原理です。1次系は窒素で満たされていますが今回事故が発生した2次系は空気と接触し、ナトリウム火災が起こりやすいのです。

すでに指摘されていた危険性

以前から、高速増殖炉もんじゅの安全性に関しては多くの疑問が持たれ、その運転凍結の署名が85万名を超えました。その際には多数の理学部職員の方々が御協力して下さいました。もんじゅの開発とプルトニウムの利用は日本の核武装を危惧するアジアを始めとする海外からの強い批判がありました。日本弁護士会も強くプルトニウム利用を批判する報告を発表しています。動燃はこれらの声を無視し、我国の技術は優秀であり、イギリス、ドイツ、フランス等で起こったナトリウム火災や反応度事故は起こらないし、万全の対策がしてあると豪語してきました。今回の事故は、皮肉にも、科学技術に国境はなく、我国だけがナトリウム火災を始めとする高速増殖炉の危険性を免れるなどということがないことを示したものです。

安全な未来を確保する道 ―― もんじゅを廃炉へ

着工以来、動燃は様々のトラブルをモノともせず、遮二無二突進し、今夏には送電を強行しました。さらに、40%にまで出力を上げ、来年6月には100%の出力で発電すべく今月1日には、プルトニウム燃料を東海村から敦賀まで、住民の不安と反対の中を輸送したばかりでした。猛毒プルトニウムを1トン余、危険なナトリウムを1千トン余りも含むもんじゅが、大規模な事故を起こした場合の被害は、想像を絶するものがあります。今回はその危険性をまざまざと実証したのです。永久にもんじゅを停止し、廃炉にすること、これ以外に私達の安全な未来を確保する道はないと思います。


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