いちょう No. 95-7 95.11.2.

前にお知らせしたように、10月25日(水)に、教員への任期制の導入についての学習会が宇宙地球の共同講義室で行われました。以下は、そこでの議論の井川書記長によるまとめです。


支部学習会 「大学教員への任期制導入は何をもたらすか?」報告

井川淳志(物理)

大学審議会中間報告

大学審議会(文部省の諮問機関)は9月18日組織運営部会に於ける審議の内容-大学教員の任期制について-という中間報告をまとめました。それによると、人事の流動化による教育研究の活性化と多様な経験を通じた若手教育・研究者の育成をはかるため、各大学の判断で大学の教員に任期制を導入することが必要である、としています。これまでからたびたび、大学活性化のために任期制を導入すべきであるとの意見が経済界などから出されていましたが、公的な諮問機関が答申を出すのは初めてのことです。

無条件反対ではなく多角的な検討を

ことは教員の身分に直接かかわることであり、まず答申の中身とその背景を正しく知る必要があるだろうということで、理学部支部主催で10月25日に学習会を行いました(約10名の参加)。参加者の大半は、“任期制は労働者の身分を不安定にし、その権利を侵すから無条件に反対”という従来の主張だけでは荒っぽすぎるという実感を持っていました。答申が述べているように、教育研究の業績の評価と人事の流動化によって大学の活性化を図れる可能性があるとは多くの人が認めているところだと思います。しかし、業績評価等の運用によっては、思想差別、基礎研究蔑視、質より量、若手教員の育成ではなく締め付け、恣意的な人事再編につながりかねない危険性を持っています。また、教員の労働者としての生活を守る権利がおかされる可能性があります。そこで、職員組合としても、この問題について多角的に検討する必要があると思われます。

学習会の講師をお願いした加藤重樹氏は、京大にこられるまで3カ所の大学・研究所で働いてこられたこともあって、他大学の状況に詳しいと同時に、任期制によって、良かれ悪しかれ研究室の人間関係がクールになること、住宅問題や、子どもの教育問題で苦労することなど具体的結果を実感されており、重みのある解説でした。

議論の中で

報告の後の議論の中では、任期がきたとき再任を認めないとすれば、他大学の受け入れ体制がどうなっているべきかということが問題にされました。任期制導入の是非について議論する前にその前提条件である教員採用の実体を知る必要があります。本学の理学部に所属していると、公募による教員採用はあたりまえだと感じていますが、他大学や他部局では閉鎖的人事が普通のところも多いそうです。

また、任期制を導入することで、教員の間に殺伐とした激烈な競争状態が生じてしまうと、学生が大学教員という職業に魅力を感じなくなるのではないかという意見も出されました。

財政誘導 ―― 拙速に陥る危険

この答申は、各大学の判断で任期制を導入すること(選択的任期制)が適切、と述べていものの、最後に「任期制を導入する大学の教育研究条件の整備について積極的に支援すること等の措置について検討する必要がある。」と財政誘導によって任期制を導入させようとする姿勢も見られます。近年の大学にはびこる拝金主義のもとでは、杜撰な議論だけで、矛盾だらけの任期制の導入に踏み切るという本末転倒なことにもなりかねません。

今後の検討事項

今後大学教員への任期制の問題を考えるにあたり、既に実行している基研、分子研、物性研などのケーススタディをする必要があります。また、日本の大学に於いて教員採用の実体がどうなっているのか調査をする必要があります。大学審議会組織運営部会は昨年6月に「教員の採用の改善について」という答申を出しているので、これを参考に資料を集めるといいとおもいます。更に、奨励研究員、COEによる任期付きのポストの急激な増加により、層を成すに至りつつある流動的研究者の実体をリアルにつかむ必要もあります。

理学部支部教官部会として全学の教官部会と協力してこの問題に関連した様々な資料や、議論の場を提供していく所存です。とくに若手教官部会(助手部会)準備会の一つの活動テーマになりうると思います。


「いちょう」へ