いちょう No. 95-13 95.12.14.

物理の坂本さんは、身近に教員の任期制を体験した一人です。今回、ご自分の経験された任期制について、ご寄稿いただきました。なお坂本さんには、現在、教員部会の世話人もお願いしています。


任期制について経験したこと

物理第二 坂本 宏

最近、教員の任期制について色々議論を聞いていて思い出すことがあります。私ごとですが、大学院を終わった後も職がなくて某大学の準研究員のポストがあるがこないかといわれ、出かけていきました。3年任期であること、行政職(技官)ポストであること、教育デューティを負うことなど、条件として特別いいわけではありませんでしたが背に腹はかえられないという気分でした。職場としてはそれなりに楽しめるところで、共同利用実験に勝手に出かけていくなど、結構自由にさせてもらいました。

ただ、任期の運用は厳しく、前任者は実際に退職して外国に職を求めていきました。私も、勝手なことばかりしたのが障った(?)か周りからは慰留の雰囲気は全くなくてこれは出ていかんとあかんなと感じるようになりました。学会や研究会にせっせと顔を出して売り込んだり、応募書類をそこらじゅうに送ったり、色々努力しましたがなかなかいい話はないまま任期切れが近づいてきました。幸い、捨てる神あれば拾う神ありでちょっと業種を変更して研究を続けることが出来るようになりました。

任期制に賛成の議論は多分、任期切れが近づいてくるとあせって派手に目立とうとするのを、アクティブにやっていると錯覚している面もあるのではないかと感じています。特に若い研究者にとって、周囲の思い目出度く気に入られるようにやっていくか、ひたすら派手に目立ってやっていくかなど、本質的でない研究態度を押しつけられるのは、たまらないのではないでしょうか。

あと、任期切れに近づくにつれて強く感じるようになるのは、自分の研究力量を高める努力はするが、研究室の研究水準を上げる気にはならなくなってくること。自分の研究環境として、そこにあるものは頂くが、自分から奉仕して残していこうとしなくなること。もちろん若手研究者はいつまでもそこにいるわけではないのだけども、自分の研究計画の中でいつごろまでに実験を終わり、結果をまとめて、次に移ることを考えようと設計が出来れば、そのために研究室の水準をどこまで上げる必要があるという立場にも立てるが、そういった計画と無関係に「お前の任期はいつまで」と決められると、その時点で自分の持つ力量が全てと考えるようになる気がします。

現在問題になっている任期制と必ずしも同じ条件で議論はできないかもしれませんが、出来の悪い一研究者の回想でした。


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