いちょう No. 97-21 98.1.22.

プルサーマルは無駄で危険だ

物理第1教室 山田 耕作

福井県では「もんじゅを2度と動かさないで下さい」という知事宛の県民署名が21万名を超えました。これは約80万の県民の4分の1、圧倒的多数の県民の声を反映しています。高速増殖炉(もんじゅ)が破綻した中で、政府と電力会社はプルサーマルという形でプルトニウム利用を進めようとしています。その利用の許可が出ていないのに、関西電力はMOX燃料を海外に発注しています。

プルサーマルとは

通常の軽水炉である熱中性子(Thermal Neutron)炉でプルトニウムを燃焼させることをプルサーマルといいます。一方、ナトリウム火災で停止中の「もんじゅ」はプルトニウムを燃料としますが高速中性子で周りのウラン238をプルトニウムに変えることによって、プルトニウムを増殖することを目的にしています。この場合、燃料のプルトニウムは20~30%の濃度にして反応度を高めます。プルサーマルではウランとプルトニウムの両酸化物を混合した燃料(MOX(Mixed oxide)燃料)を用います。この場合、プルトニウムは6~10%の濃度です。このMOX燃料を特定の軽水炉のウラン燃料の一部(160の燃料集合体の中40体)の代わりに用いてウランを節約しようというものです。

ウランの節約はどの程度か

現在、1999年頃から始めて、最大で日本の原発の15~17基程度にプルサーマルを導入することが計画されています。これは多くても日本の原発の3分の1ですから、その原発の燃料の4分の1をMOX燃料として12分の1の燃料が節約されるにすぎません。まして世界全体で見ますと日本の原発は世界の原発の11% で、我国でプルサーマルを実施しても1%の節約にもなりません。ウランの埋蔵量から推定される73年というウランの利用年数が1年も延びません。

なぜ、広く世界中でプルサーマルが行われないのか

我国で「平和利用」として再処理を行うと、プルトニウムの燃料費がウラン燃料の10倍程度になり、採算がとれません。経済性が全くないのです。ドイツやフランスでは現在も3基以上で、プルサーマルを実施しています。しかし最近、ドイツは使用済み燃料の再処理や高速増殖炉の計画も放棄し、プルサーマル用のプルトニウム燃料加工工場も閉鎖しています。フランスの場合は、プルトニウムを取り出す再処理工場が軍事利用と一体であるという事情があります。

プルサーマルの危険性

あまり節約にならなくても、将来のエネルギー事情を見越した時(採算の悪さに目をつぶれば)、「しないよりはまし」といえるかもしれません。しかし、プルサーマルの実現には、現在の商用原子炉と比較にならないくらい大きな危険がともないます。

まず燃料の再処理にともなう問題です。軽水炉での使用済み燃料には、プルトニウムが1% 程度含まれています。これを再処理して放射性廃棄物とプルトニウムとウランに分離します。この再処理の過程では燃料棒を切断し濃硝酸で溶解します。この過程で、軽水炉運転中に生じたクリプトンの放射性同位元素など、気体の放射性物質が大気中に放出されます。次にプルトニウムやウランの分離は有機溶媒に溶かして行われますが、ある量(臨界量)以上が集まると核爆発が起こります。また最近の動燃の核廃棄物のアスファルト固化施設で起こった通り、有機溶媒は火災を引き起こしやすいものです。原発関連の最も恐ろしい事故は再処理工場の火災による酸化プルトニウム微粒子による被曝です。気管枝や肺にはいると沈着し、アルファ線を放出して確実に肺ガンを引き起こすことで恐れられています。MOX燃料に加工する過程もプルトニウム241がベータ崩壊してできたアメリシウム241がガンマ線を放出し労働者の被曝が増加します。

燃料の再処理も危険ですが、プルサーマルの最も危険な点はプルトニウムの燃えている部分の反応が速く、中性子のエネルギーも高く、制御が困難なことにあります。先に述べた燃料の4分の1にしかMOXを利用しないのは制御棒の近く(ここでは中性子が吸収される)を避けたりするためです。熱中性子を目的として作られた軽水炉原発でプルトニウムを燃焼させるのは危険なことです。これまで国内では燃焼度を低くした6体のMOXの経験があるだけです。「ふげん」というプルトニウム利用を目的とした転換炉が廃止されようとしていますが、この炉のプルトニウムの濃縮度が1.5%です。ですから、燃焼度の高い極めて危険な実験を行おうとしていることになります。

プルサーマルを実施する本当の理由 ―― 何でも良いから利用しないと...

プルトニウムは長崎に落とされた原爆の材料であり、ゴルフボール位の量で核兵器になります。そのため、余剰のプルトニウムをもつことは核武装を国際的に疑われることになります。さらに、我国の当初からの方針として使用済み燃料は再処理してプルトニウムを利用することにしてきました。

ところが高速増殖炉にも利用できない現在、何でも良いから利用しないことにはプルトニウムは2万4千年もの半減期(239Pu)をもつやっかいなゴミになってしまいます。さらに、再処理するという理由でフランスやイギリスの海外や、青森の六ヶ所村に運び出している使用済み燃料が運び出せなくなり、原発サイトに貯まり続け飽和状態に近づいている使用済み燃料の処置に困ります。それが、危険であれ、採算割れが確実であれ、プルサーマルをしなければならない本当の理由です。

一切のプルトニウムの生産と利用の中止以外に解決はない

安全で経済的なプルトニウムの利用方法はありません。プルサーマルで利用することは、ほとんど利益のないことで危険な賭に原発から数百キロ内の人々を巻き込むことです。さらに、MOXの使用済み燃料は燃焼度が高いため、プルトニウムのもっと危険な同位元素や他の超ウラン元素を含み、図に示すように冷却に通常の核燃料の10倍もの年数を必要としやっかいな廃棄物を作り出します。つまり現在の2万4千年の憂うつを、目先の数十年のためにさらに何万年も伸ばすことになってしまいます。一切のプルトニウムの生産と利用の中止以外に解決はないというべきでしょう。


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