いちょう No. 99-26 00.6.15.

埋め捨てにしていいの?高レベル放射性廃棄物

化学 藤村 陽

昨年来、国会では悪法の成立が相次いでいるが、衆院解散前日の5月31日に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」という問題の多い法律が賛成多数で駆け込み成立した(反対は共産・社民)。名前を見ただけではわかりにくいが、この法律は、原子力発電所の運転で発生する非常に放射能が強い廃棄物を地下に埋め捨てにすることで、「最終処分」してしまったことにしようというものである(法律の条文はたとえばhttp://www.ne.jp/asahi/n/kinoko/hohonbun.html )。

原発の運転と放射性廃棄物

原発は「トイレのないマンション」と呼ばれ、そこで発生する「核のゴミ」の処理は、世界中の原発利用国が頭を悩ませている問題である。原子炉では核燃料のウランやプルトニウムに中性子が当たり、核燃料を分裂させて大きなエネルギーを取り出す。このときできた核分裂生成物は不安定な原子核が多く、放射線を出しながら安定な原子核に変化していく。この他にウランが中性子を吸って大きな原子核になる場合もあり(超ウラン元素)、これも安定な原子核になるまで放射線を出し続ける。

平均的な原発では1年に約30トンのウラン燃料を使うが、1トン分の使用済み燃料でもそばに近づけばわずか数秒で致死量になるほど強い放射線が出ている。この強い放射線は比較的短い時間の間に放射能を出して安定になる原子核(主にストロンチウム90とセシウム137)によるもので、これが1000分の1に弱まるのに300年ほどはかかる。この他に放射能が弱まるのに何百万年以上もかかる原子核もあり、これらは一定の時間の間に出す放射能は弱いものの、廃棄後に漏れて地下水などを通して定常的に摂取することがあれば健康への影響は大きい。

「地層処分」――― 結局、埋めるしか手はない?

いま述べたように、使用済み燃料から発生する高レベル放射性廃棄物は取り扱いが困難なので、長期間にわたって人間が管理することは諦めるというのが、原発推進の立場の国際的な流れであった。そして、宇宙、海底、南極などに捨てることも考えられたが、技術的な困難や国際的な条約の制限からこれらは頓挫して、人間環境から隔離する路線としては、「地層処分」と呼ばれる地下への埋め捨てが消去法で残された選択肢となっている。しかし、技術的な困難だけでなく、究極の迷惑施設の受け入れという社会的問題の難しさから、いまだどこの国もこのような処分に踏み切ってはおらず、何らかの管理をすることも再検討され出している。

核燃機構の報告書 「日本でも埋め捨てできます」?!

さきの国会で成立した法律では、この「地層処分」を行えることが前提となっていて、核燃料サイクル機構(旧動燃)が昨年11月に出した「地層処分研究開発第2次取りまとめ」なる報告書(http://www.jnc.go.jp/kaihatu/tisou/2matome/index.html )が「地層処分の技術的信頼性」を示すものと位置づけられている。

報告書は、世界でも有数の変動帯にある日本列島でも大きな地質運動の影響を受けない場所を見つけることが広く可能であり、地下数百メートルから1キロの深さに2キロ四方もの広さの処分場(坑道の総延長は200キロ近く)を作る安定な地盤が確保できるという。放射性廃棄物は薬品で溶かしたあと高温でガラスと一緒にしたあと冷やして固めたもの(ガラス固化体)を金属容器に入れ、粘土の緩衝材でまわりを取り囲んで埋める。金属容器は1000年は腐食に耐え、地下水とガラス固化体が触れても、放射性核種が全て溶け出すのには何万年もかかり、溶け出た後も粘土や天然の岩盤に捉えられるため、地下水中を移動して人間環境に達する量はわずかで、何十万年後の人類の健康にも影響はないという。

国策遂行のために ――― 科学を着飾って

この報告書の作成に当たっては多くの科学者や技術者が関わっているはずであるが、国策として「『地層処分』は安全にできる」という結論が先にあり、それに合わせるように書かれたとしか言いようがない内容である。

たとえば、見つかっている活断層を避ければ将来にわたって安全な処分場が選べるといった記述は、地震科学の常識とは相容れない。金属容器の腐食やガラスの溶解、また緩衝材の働きや放射線の影響なども実験室の限定された条件の実験に基づくもので、地下深くにとてつもなく強い放射線を出す廃棄物を埋設したときの長期にわたる安全性を保証するとは言い難い。地下深くでの地下水の挙動も都合良くデータが解釈され、地下水への放射性核種の溶け込みや地質への取り込まれ方、人間環境に達してからの放射性核種の摂取量の設定など任意性が大きい。これらの条件に不確定があっても、最大限の安全の余裕を見て被曝量の推算が行われるならまだしも、悪い条件は重ならないとして国際的な防護水準を超えないようにちょうど都合良く設定して「安全」という結論が導かれている。処分場の設計や地下水の挙動でも、実際の地質のバラツキを簡単に全国的な平均値で代表させてしまい、それをもって日本でも一般的に「地層処分」ができるとしている。

科学者がすべきことは?

このような報告書に基づいた「地層処分」が実際に実施可能かどうかはわからない(政府の計画でも埋めはじめるのは早くても2030年代)。ところで今回の法律の目的は、放射性廃棄物の「安全な処分」ではなく、「原子力発電の環境の整備」となっている。つまり「原発のトイレはできた。安心して原発を続けよう」という口実を確定させるのが第一の主眼であり、放射性廃棄物が現在「一時的に」運び込まれている青森県との政治的な約束のために急ぎ成立されたことがすでに明らかになっている。

高レベル放射性廃棄物には、ベストの処分などあり得ず、まずはこれ以上廃棄物を増やさないことが取りあえず出来ることと思うが、将来の世代が困るような廃棄物を増やし続けることに「科学の装いをこらした」政治的な報告書が利用されていることを、我々科学者が見過ごしていいのだろうか。


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