いちょう No. 97-11 97.10.30.

先週10月25日(土)、10人余りの参加[地球(小松・高橋・鈎・森)、植物(鈴木)、化学(吉村+子供2人・向山)、地鉱(堤)、宇宙(大谷・池村)]をえて、秋のリクレーションが行われました。吉村支部長から、当日の印象記を寄せていただいています。


土に親しんだ秋の一日

化学 吉村一良

今年の理学部支部、秋のリクレーションは、宇宙分会の大谷さんの紹介で、陶芸家の加藤輝雄氏の工房(滋賀県土山町鮎河(あいが))にお邪魔し、作陶の一日入門をさせていただいた。加藤さんは、瀬戸十作の陶工・治兵衛の流れをくみ、修学院に紫岳窯を開いている陶芸家で、中国宋時代の白磁や青磁に魅せられ研究を続けておられる。1988~89年には正倉院より依頼され、正倉院宝物の写しの展覧会(寧楽色彩展)に参加されたことでも有名な陶芸作家だ。今回は加藤さんのご厚意で、作品を見せていただくだけでなく、作陶までさせていただくことになった。

山里、鮎河へ

朝9時に理学部正門前に集合し3台の車に分乗し現地(鮎河)向かった。京都東インターから名神で栗東まで行き、国道1号線で鈴鹿峠の手前の土山へ。そこで左折し、瀬の音を経由して鮎川まで行ったが、一号線が渋滞していたので1時間半の予定が2時間かかってしまった。

加藤さんの工房は昔ながらの農家の家をそのまま利用した建物で、土間や囲炉裏がある板の間からなっていって、田舎育ちの私には非常になつかしいつくりであった。家の周りも、柿が実り、紫式部が咲いていて、仕事場としてはうらやましい限りの環境である。最初、加藤さんの作品やお父さんの作品〔中でも陶器の印鑑は、箱状の印鑑が3、4重になって(ロシアの人形のような構造)最後は6面全部が印鑑になっていて興味深かった〕などを見せていただきながらお茶をごちそうになった。

加藤さんは気さくで、それでいて深みの有るといった素敵な方で、自ら説明しながら、貴重なもの、高価なものまで色々見せて下さった。加藤さんが発する言葉はやはりその道を窮めた、または、窮めんとしている人のものらしく、一つ一つが重みが有り、なるほどうならせられるものばかりで、思わず中島敦の名作「名人」を思い出してしまった。これから、その印象に残った名言を紹介しながら筆を進めよう。

「教えればそのことを覚えるだけ」

囲炉裏の周りで用意してきたお弁当を食べ、さっそく、一人一人、土をいただいて、思い思いに作陶を始めた。最初、加藤さんが、一握りの土で細い土の紐を作ることの実演をして下さった。加藤さんがやると手品のようにいとも簡単に土の細紐ができあがるが、我々がやると、これからしてなかなか難しい。プロ級になると一握りの土から楊枝の太さ程度の紐が5~7メートルつくれるとのことであるから驚きだ。作陶を始めてみると、やはりなかなか難しく、土をなぶればなぶるほど、肉厚が薄く口が開いてきてしまう。壷のつもりが、茶碗に...しまいにはお皿になってしまう。さっそく加藤さんに手直しをしてもらう人が何人か現れる。ここで、名人から一言、「ずっと、陶芸を続ける人には決して手を出したり、教えたりしない。教えればそのことを覚えるだけだ。しかし、教えなければ、更に3つも4つも考えてくれる。」

「その人のものを見つけることが大事」

皆さん、なかなか悪戦苦闘しながらも、だんだんと慣れてきて、作品がどんどんできてきた。作風を見るとその人の性格が顕著に出るそうだが、加藤さんの解説・講評を聞きながら、各自、なるほどと心当たりが... 池村さんはかなり作陶に没頭しておられて、加藤さんからお褒めの言葉をいただいた。

「この人は、ずっと続ければ良いものをきっと作るようになると思います。それは、周りを気にしないから...唯我独尊、これが一番大事です。」

名人語録をもう少し続けて披露しよう。

「技術を身につけようとするな。人は技術を身につけるとそれに溺れる(はまってしまう)。その人のもの(個性)を見つけることが大事で、技術は時間とともに自然に身に付くものです。」

「なんでもそうだと思うが、やっていくと必ず壁にぶつかる。そこでずっと続けることができれば自然と壁は乗り越えられます。」

加藤さんのおっしゃることは、どれも蘊蓄があり、研究などでもそのまま当てはまりそうなことばかりである。みんな熱心に作陶に打ち込んだので、12月~1月頃に作品が焼き上がってくるのが楽しみだ。ちなみに、形が壊れてしまうかどうか、ぎりぎりぐらいの作品が、壊れる危険性はあるが、うまく焼けると面白いものになることが多いそうである。

楽しい一日をありがとうございました

空気の美味しい山郷といった観のある鮎河で心休まる楽しい一時を持つことができ、みな納得の表情で帰途についた。加藤さんの工房にはペルシャ猫の“ほわチャン”がいて、うちのこどもたちは、ほわチャンと遊ぶのもかなり楽しかったようである。帰りは土山の茶畑の中をドライブしながら京都へと向かった。

今回、色々お世話下さった、宇宙分会の大谷さん、ならびに、池村さんはじめ文レクの方々、本当にありがとうございました。また、加藤輝雄さんには作陶に用いた土の準備から作陶のご指導、作品の解説のみならず、お抹茶やコーヒーまで、全てのことごとに何から何までお世話になりました。この場をかりて感謝したいと思います。加藤さんの個展は12月に有るそうです。また、修学院の紫岳窯で陶芸教室もひらいているとのこと。興味のある人は行かれると良いと思います。感謝もこめて宣伝しておきます。


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