いちょう No. 95-8 95.11.9.

50周年に寄せて 京大理学普及講座

清水大吉郎元理学部副支部長(元地鉱)から、戦後、生まれて間もないころの理学部職組の事業であった、「京大理学普及講座」の貴重な資料が寄せられました。ここではその刊行の言葉を紹介します。なお初代の理学部職員組合の支部長は、化学の石橋雅義教授(分析化学。われわれからは雲の上の人)であったようです。


京大理学普及講座  刊行の辞

今次の大戦において我が国は挙国総力の完敗を喫し、その結果多年にわたって営々築き上げた世界的地位を一挙にして喪失し、国民は廃墟と疲労と窮乏の裡に虚脱し去ったかの世相を露呈して居ります。実に残念ではあるがある期間はやむを得ない現象と思われます。

しかしながら我々は可及的速やかにこの虚脱より起ち、戦争中体験した数多くの教訓を以って新日本建設の礎石となし、断じて禍を転じて福となさねばなりません。蓋し言うは易くして行うは極めて難いことをくれぐれも覚悟すべきでありましょう。

京都帝国大学職員組合理学部支部は、この困難にして然も光栄ある平和新日本の建設に寄与し、世界文化の進展に貢献すべき大学の使命を達成せんがために、昭和21年2月13日、理学部職員によって結成されました。而してその事業の第一歩として計画されたのが理学日曜講座であります。それは昭和21年3月10日より現在まで引続き数学、物理学、化学、地質鉱物学及び生物学等、各研究室専門の方々を煩わして、学内外の聴講に応じたのでありますが、幸いに好学の士の翹望に適い毎時多数の参加を得て頗る好評を博しました。爾来その講義内容の刊行に就き周囲から熱心な慫慂勧説を受けること一再に止まらず、仍ってここに之を上梓して汎く江湖に見える運びに至った次第であります。

終戦既に満1ヶ年、本書が理学知識の普及に役立ち、且つは理学そのもののあり方について示唆を与えるところがありますならば、誠に同慶至極に存じます。

昭和21年8月15日
京都帝国大学職員組合理学部連合支部長  石橋雅義


(原文の文字、送り仮名を一部読みやすいように変えました。)

なお、寄せられたのはこの京大理学普及講座の第2冊、森主一(後に理学部長)著「野鳥の囀りと環境」の再版(昭和22年2月25日。初版は昭和21年11月25日)。値段は 30 円(15 円と印刷したのを、万年筆で書き直してある)、発行所は、富書店(二条通り河原町西入)です。


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