いちょう No. 95-16 95.1.25.

昨年、科学技術基本法なるものが出来て、科学技術関係の予算が潤うことになりました。この法律には経済界も注目している由、中央行動に参加されたAさんも述べておられます(いちょう12月21日号)。われわれは、千万単位の研究費が出る「公募制研究制度」など結果の方に目が行きがちですが、今回は、その根拠となる科学技術基本法について、少し批判的な立場から、物理の瀧本さんに解説をお願いしました。


科学技術基本法について

物理分会  瀧本清彦

科学技術基本法は、昨年(1995)10月31日に衆議院で可決され、11月8日に参議院で全会一致で可決され成立しました(共産党が2項目の修正案を提案したが否決)。この法律は、1968年に政府が国会に提出し廃案となった「科学技術基本法案」の骨格を踏襲したものになっています。

科学技術振興は国の責務

「科学技術基本法」は、科学技術振興は日本と人類社会の「将来の発展のための基盤」と位置づけ、国は科学技術振興に関し、総合的な施策を策定し実施する「責務を有する」と定めています。この法律によれば、科学技術の振興は国の責務であり、国は科学技術基本計画を策定して、研究者の養成、研究施設の整備と、これらに必要な財政措置を講じなければなりません。

2つの問題 ―― 基本原則の欠如とプロジェクト型研究開発への傾斜

これは長らく行革に頭を抑えられてきた大学関係者にとっては、ひさびさの朗報です。しかし、いくつかの問題点があります。まず、「基本法」ならば定めるべき科学・技術の基本原則(平和目的、研究の自由・公開、研究運営の民主性、平等互恵の国際交流など)が定められていません。ですから法律の中で、「国際貢献論」に立脚した国際交流を国に義務づけているのは、軍事技術開発につながる危険もあります。また、科学技術会議(科学技術庁と文部省が共同事務局)を重視する一方で、学術会議や学会等の研究者・技術者の意見を反映させるものとはなっていません。このため「科学技術基本法」は、現在のプロジェクト型研究開発に対する重点投資の方向に一層拍車をかけるものとなるでしょう。したがって、重点投資対象外の研究分野の研究体制の貧困化、日本における科学と技術の歪みの拡大の進行が懸念されます。

「科学研究基本法」を!

科学・技術の振興については、学術会議がすでに1967年と1976年に「科学研究基本法(仮称)」を勧告しています。「科学技術振興」を単独で先行的に制定することなく、研究者の自主性の保障、成果の公開、研究条件の整備、人文・社会・自然科学の調和的発展、学術会議や学会の意見尊重などの根本原則を定める「科学研究基本法」を少なくとも同時に制定すべきでした。今回の「科学技術基本法」の独走は、科学技術の振興を科学研究の振興に優先する国家政策のあらわれといえるでしょう。


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