いちょう No. 97-31 98.5.21.

5月13日(水)に開かれた理学部教研では、94~95年に行われた“重点化”が、大学院生の教育という視点から取り上げられました。院生数の変動のようすや、教室ごとのアンケート調査結果、事務サイドからの報告など踏まえて、活発な議論が行われた由です。今回のいちょうでは、2人の方に、参加しての感想を寄せていただきました。

教室ごとの多様性に驚いた教研集会

化学 木村佳文

先日(5月13日)おこなわれた理学部支部の教育研究集会に参加させていただきました。教研集会に参加させていただくのは、はじめてのことであったので、多少緊張しながら参加させていただきましたが、終始和やかなペースで話が進んでいたように思います。テーマは「重点化と大学院教育」ということで、重点化による定員増が事務・教育に及ぼした影響についてアンケート調査に基づく資料等をもとに、いろいろな情報が交換されていきました。

重点化による定員増は予想された以上に事務の方々の負担を増大させているようです。定員増にともなって各種証明書発行等の事務量が増えることは当然として、他大学出身の院生がふえたことで、京大に不案内な学生あるいは入学志願者が事務室に詰め掛けることがおおくなったようです。

大学院教育に関するアンケートでは、①修士課程の講義等、②学生の気質の変化、③学生の進路、④指導方針の変化、のおおきな4つの項目について各教室から意見が回収されていました。重点化に絡んで変化が大きいと各教室で認識されているのは、①および③の関連事項でした。

印象的だったのは数学教室では、重点化により、研究者養成(Aコース)とそれ以外(Bコース)にわけてコース選別で学生をとるようになったのに対し、他の教室ではあまり重点化にともなって教育方針・カリキュラムを大幅に変更したところは少ないということです。また化学教室のような雑多な分野のある教室に在籍する私にとって、物理では開講される院生向けの講義自体が2つ(実験系と理論系)しかないのは驚きでした。③の学生の進路に関しては、数学・生物教室以外の多くの教室で、結構危機感を持ってらっしゃるようでした。これは博士課程志願者の増加、ポスドク(博士研究員)定員の拡大によって、見かけ上OD(オーバードクター。博士浪人)は減ってきているが、近々 OPD(オーバーポスドク。博士研究員浪人?)問題が生じるだろうというものです。また学問分野の細分化によってポスドクをとるときにでも、最適者がいないといった問題も起こりつつあるようでした。

今回の会合では、重点化によって特に定員のふえた、研究協力機関(防災研など)の生の声を聞くことはできませんでしたが、そこらへんが次回の課題として提案されていました。

私にとっては、普段耳にすることのできない他教室の大学院教育の実態を垣間見ることができ、有意義な会合でした。さまざまな資料を用意していただいた教研特捜班の方々に感謝したいと思います。


今回の教研集会には、院生の参加もありました。意気高い、その声は頼もしい限りです。

学生として教研集会の議論を聞いて感じた事

上野 悟 (宇宙院生 兼 天文台特別研究員)

はじめまして。宇宙物理学教室博士課程2年の上野と申します。

先日5月13日、初めて教研集会を見学させて頂きました。と言いましても、特にその場で発言したいことがあって出席したという訳ではなく、以前から今回の教研集会では、各教室の大学院生が大学院重点化についての見解を発表する、ということを聞いていたものですから、それが中止になったことを知らずに聞きに行ったという訳なのです。気が付いたら学生が私一人しかおらず、ちょっと肩身の狭い心地で出席者の人達のお話を聞かせてもらいました。

大学院重点化の恩恵?

そもそも、文部省がどういう方針で大学院重点化を始めたのか、これがどのようなレベル・分野から出てきた要求を受けたものなのか、などと言ったことは未だに私は良く理解しておりません。この集会の皆さんの話を聞いていましても、仕事の増加や学生の質の変化に手を持て余している、といった雰囲気が伝わってきて、どうも恩恵を受けている話はあまり無かったように思います。

恩恵と言えば、私のような、基礎学力がそれほど優れてはいないけれども、研究をしたいという熱意はある、というような学生が、定員増によって進学可能になったということぐらいなのでしょうか。

院生は皆研究者の卵 ―― 教官はやさしく見守っていてほしい

ただ、研究分野によって色々学生自身の事情は異なると思いますが、私などは、基本的に大学院で教官の方々からテーマを与えてもらったり、基礎学問的なことを手とり足とり指導してもらったり、ということは期待しておりません。その大学院、研究室に入るという事は、自分がやりたい研究テーマを遂行するために必要な研究手段を手に入れるため(天文学なら望遠鏡や検出器、計算機など)だと考えておりますので、大学院生が増えたからと言って、教員の方々が、指導方針やカリキュラムを変質させていく必要は無いかと思います。

もし、学生自身が本当に別世界へ就職したいと考えるようになれば、自らそのように相談しに行くはずですので、その時にその学生に対して相談に乗ってもらえれば、それで良いと思います。あくまで、教官の方々は、学生がやりたいと思っていることがうまく進むようにサポートして頂いたり、こういう研究もあるのだ、という事を紹介してもらって、学生の視野が狭くならないように注意してもらう、といった程度に接して頂いて、基本的に学生は皆研究者の卵として見倣して頂きたいと考えます。(数学科のBコースと言うのは納得しがたい制度です。)

重点化したなら国公立の研究施設を増設すべし

一方、憤りを感じるのは国の方針でありまして、「大学院重点化の必要性を感じているなら、ちゃんと国公立の研究施設を増設しろよ!」という事が一番言いたいことであります。天文学に関しましては、意外に村・町レベルで近年公共天文台を作る所が相次いだため、その辺りに就職して行った人も多く、多少助かっているのですが、肝心の大学院重点化を進めている国自身がそういう努力をやろうとしているというのを全く聞かないのは怪しからんことです。

大学教職員の皆様には、就職先が無いから大学院定員増を抑制しようという方向ではなく、「我々の研究は人類にとって必要なことであり、より多くの研究者が必要である。だからもっと大学の教職員定数や国立の研究所の数を増やしなさい。」と言う積極的方向で、上の方と交渉して行って頂きたいとお願い申し上げます。


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