いちょう No. 95-11 (95.11.30)

技官の専門行政職移行をめぐって、これまで教員の側からの発言があまりありませんでした。今回のいちょうでは、これまで理学部工場構想など、理学部における技官問題についてさまざまな提言を行ってこられた、物理の加藤利三さんにご寄稿いただくことができました。


専門行政職移行を形式に止めるな
   ―――官僚的・形式的適用では何も変わらない

物理  加藤 利三

 最近の精密機器を用いた実験・実習や野外実習、生物試料の採取や管理、長期に亘る観測業務等は、技術職員の高度の技術や開発研究の努力無しには、その水準を維持することすら困難である。当理学部では昭和47年頃から理学部中央工作室の構想が提起され、一部金属工作、回路、ガラス、木工関係職員の集中化と増員および設備の近代化を図り、開発研究を促進し、技術水準の向上ならびに職務内容の合理化を目指して、数年に亘り概算要求がおこなわれた。しかし定員削減と増員の困難さから、この計画は実現せず、遂に技術系職員数は当時の約半分に減少するにいたった。

 一部の大学では学内措置等により、学部付属工場または工作室を設置し、統合的且つ有機的運営を行い成果を挙げているところもある。(当理学部でも、形式的な組織化に留まらず、現有職員を基礎に再編・集中化および増員[を]図り、教育・研究現場と有機的連携をもつ中央工作室を設置し、設備充実と技術水準の向上のための方策を実施することなどを改めて検討する必要がある。)これとあわせて、技術職員の意欲的な業務遂行を奨励する意味で、技術職員の研修や成果の発表および評価のシステムを確立することも肝要である。

以上は平成6年4月に出版された「京大理学部の現状と課題」(自己点検・評価)の中の技術組織に関する記述である。平成3年4月に行われた技術職員の組織化は、もともと技術職員の専門行政職(専行職)への移行の準備と、待遇改善を目指してなされたと聞いているが、どうも形式的組織化に終り、年功序列により役職を割り振ったに過ぎないようである。この組織化により技術職員の活性化が図られたようには見えない。仮に専門行政職が導入され、そこへの移行が実現したとしても、果たして技術職員の業務が大幅に活性化するであろうか。

技術職員の現状を踏まえた時、今日理学部で大切なのは、①評価システムの確立(技術系組織の活性化のために、学部としての一定の予算を割当て、毎年、理学部の実態に見合った研修会や、成果の発表・報告会を開催し、教員も参加して技術職員による相互点検を行うことが考えられる)と、②実績の記録とつみ上げ(たとえば名古屋大学はすでに10年近く、理学部としての技術報告書を毎年作成し公表している)だと思う。又、新しい試みや技術開発、観測業務等に対する学部としてのある種の奨励制度や、他機関への見学、研修のための派遣の制度等も導入して、技術組織の活性化・実質化を図ることも考えられていい。こうした工夫や取り組みは、専行職が導入された場合にも、有効に活用できるのではないだろうか。


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