実験条件・操作等を記述する際、「常温」や「1滴」といった表現を行いますが、 それが実際に何 °C、何 mLなのかは必ずしも明白ではありません。 料理をしなかった人が、 急にレシピ本片手に料理を始めようという時、 「塩少々」がいったい何 g なのかとまどうように、 化学実験初心者にとってはこのあたり不安なところです。 また熟練者に尋ねると「1滴は1滴だよ」ということになりがちです。 ここではこうした化学実験に関する、 抽象的・定性的な表現の“通念”について、 主に日本薬局方に従ってまとめておきます。
なおこれらはあくまで“通念”であって、とり扱う対象、 分野あるいは個人によってかなり幅があると心得るべきです。
物質の溶解にかかわって、「油は水に溶けない」といった表現が用いられたりしますが、 実際には少しは溶けます (このことは有機溶媒で抽出した水層の廃棄に関わっては極めて重要)。 薬局方では、溶解性を示す用語は、溶質 1 gあるいは 1 mLを溶かすのに必要な溶媒の量 (20 ± 5 °C で振り交ぜたとき30 分以内に溶ける度合い)を xとする時、 次の例によることになっています。
表現 | 対応する溶解度 |
---|---|
極めて溶けやすい | x < 1 mL |
溶けやすい | 1 mL ≤ x < 10 mL |
やや溶けやすい | 10 mL ≤ x < 30 mL |
やや溶けにくい | 30 mL ≤ x < 100 mL |
溶けにくい | 100 mL ≤ x < 1000 mL |
極めて溶けにくい | 1000 mL ≤ x < 10000 mL |
ほとんど溶けない | 10000 mL ≤ x |
溶解性の度合いを、平衡における質量百分率などではなく、 具体的な操作に準じ”体感的” に表現していて、 いかにも実践的で、学ぶべきところです。