2022.7
吉村洋介
化学実験 実験にあたって

抽象的・定性的な表現について

実験条件・操作等を記述する際、「常温」や「1滴」といった表現を行いますが、 それが実際に何 °C、何 mLなのかは必ずしも明白ではありません。 料理をしなかった人が、 急にレシピ本片手に料理を始めようという時、 「塩少々」がいったい何 g なのかとまどうように、 化学実験初心者にとってはこのあたり不安なところです。 また熟練者に尋ねると「1滴は1滴だよ」ということになりがちです。 ここではこうした化学実験に関する、 抽象的・定性的な表現の“通念”について、 主に日本薬局方に従ってまとめておきます。

なおこれらはあくまで“通念”であって、とり扱う対象、 分野あるいは個人によってかなり幅があると心得るべきです。

一般

【約】
定量に供する試料の採取において、記載された量の ±10 %の範囲をいう。
【直ちに】
前の操作の30 秒以内に次の操作に移ること。
【滴】
0.05 mL程度。滴数を測るには、20 °Cで水20 滴を滴下するときその質量が 0.90~1.10 gとなるような器具を用いる。
【溶液】
単に溶液と記載し特に溶媒名を示さないものは水溶液。

温度に関わって

【常温】
15~25 °C
【室温】
1~30 °C
【微温】
30~40 °C
【冷水】
10 °C以下
【温水(温湯)】
60~70 °C
【熱湯】
約100 °Cの水
【冷所】
1~15 °Cの場所
【水浴上(水浴中)加熱】
特に指定がなければ、沸騰している水浴を用いて加熱
【加熱した溶媒(溶液)】
ほぼ沸点付近の温度まで熱したもの。
【加温した溶媒(溶液)】
60~70 °Cに熱したもの。

秤量

【精密にはかる】
0.1 mgまではかること。「精秤する」などと表現することもある。
【正確にはかる】
指示された数値の質量をそのケタ数まではかること。

溶解度

物質の溶解にかかわって、「油は水に溶けない」といった表現が用いられたりしますが、 実際には少しは溶けます (このことは有機溶媒で抽出した水層の廃棄に関わっては極めて重要)。 薬局方では、溶解性を示す用語は、溶質 1 gあるいは 1 mLを溶かすのに必要な溶媒の量 (20 ± 5 °C で振り交ぜたとき30 分以内に溶ける度合い)を xとする時、 次の例によることになっています。

表現対応する溶解度
極めて溶けやすいx < 1 mL
溶けやすい1 mL ≤ x < 10 mL
やや溶けやすい10 mL ≤ x < 30 mL
やや溶けにくい30 mL ≤ x < 100 mL
溶けにくい100 mL ≤ x < 1000 mL
極めて溶けにくい1000 mL ≤ x < 10000 mL
ほとんど溶けない10000 mL ≤ x

溶解性の度合いを、平衡における質量百分率などではなく、 具体的な操作に準じ”体感的” に表現していて、 いかにも実践的で、学ぶべきところです。


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