コンロにかけたやかんに手をかざして熱さを知るように、 物体の放射熱からその物体の温度を知ることができます。 放射温度計は熱放射の量を測定することで、非接触で物体の温度を測る温度計です。 ここではもっぱら室温から 300 °C ぐらいの測定を考えます。 この温度領域での熱放射は遠赤外線領域(波長が 数 μm ~ 数百 μm 程度)にあります。
表面 | 放射率 |
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アルミニウム(研磨) | 0.04 |
アルミニウム(酸化面) | 0.08 |
銅(研磨) | 0.02 |
銅(酸化面) | 0.5 |
ニクロム | 0.65 |
コンクリート | 0.7 |
大理石 | 0.95 |
ガラス | 0.95 |
水 | 0.96 |
陶器(白) | 0.86 |
紙 | 0.93 |
熱力学温度 T の物体が単位面積あたり単位時間に放出する放射熱の最大値は物体の種類によらず決まっていて(黒体放射)、 温度の 4 乗 T4 に比例します(シュテファン-ボルツマンの法則)。 実際に放出される放射熱とこの最大の放射熱の比を放射率と呼びます。 放射される(遠)赤外線の反射率・透過率の高いものは、放射率が低くなります (キルヒホッフの法則)。
金属を除くと、普通出会う物体の遠赤外線の放射率は高く(透過率は低く)。 したがって通常よく使われる安価な放射温度計の放射率は 95 %程度に設定してあります (放射率の設定を変えられるものもあります)。 ホットプレートスターラーの天板の温度を放射温度計で測る場合は、 水やグリセリンを垂らすか、放射率の高いテープを貼るかする必要があります。 また放射温度計で、フラスコの外から内部の溶液の温度を測ろうとしても、 フラスコのガラスの温度を測ることになります。
放射温度計は原理的には幅広い温度領域が測定可能ですが、 学生実験で使用するオーム電機製 TN006 の測定可能温度範囲は -33~180 °Cです (2回生の実験で使用しているエー・アンド・デイの AD-5617 も同様。 ともに精度はせいぜい ±3 °C 程度なので、表示に惑わされないように!)。 これはサーモパイル(放射熱によるわずかな温度変化を拡大するものと思えばよいでしょう)をセンサーに用いているため、 温度計本体との熱伝導が無視できないことによるものでしょう。 同様に放射温度計本体が急に低温あるいは高温にさらされるような場合にも、 表示温度が変化するので注意が必要です。 また空間分解能も高くない(これが高いと赤外線カメラ)ので、 適材適所で使用するのが肝要です。
なお室温付近での熱放射は、空気による吸収の影響はほとんど受けません。 あるいは空気の温度を放射温度計で直接測ることはできません。