2022.11
吉村洋介
化学実験 資料編

凝固点降下・沸点上昇

液体の物質 A に他の物質 B を溶かし込むと、A の化学ポテンシャルが低下します。 これが固体の A と平衡にある場合なら、B の溶解による化学ポテンシャルの不均衡を、温度を下げることで補うことになり(凝固点降下)、 A の蒸気と平衡にある場合なら、温度を上げることで補うことになります(沸点上昇。圧力を下げて補う場合は蒸気圧降下)。 ギブズ-デュエムの関係から、A の化学ポテンシャル変化は B の化学ポテンシャル変化の -nB/nA になるので (n は物質量)、 凝固点降下・沸点上昇の度合いは B の物質量に比例し(”束一的性質” collegative property)、 そこから B の分子量を知ることができます。 ここでは種々の物質の凝固点降下定数沸点上昇定数をまとめておきます (CRC Handbook of Physics and Chemistry 2012 によります)。

1.凝固点降下定数

液体の物質 A に物質 B を溶かしたとき、A の凝固点は一般に低下します。 A と B が固溶体を作らないとすると、 B の質量モル濃度 mB が低ければ凝固点降下の大きさ ΔTfmB に比例し、 その比例係数 Ef は A 固有の量で凝固点降下定数 cryoscopic constant と呼びます: ΔTf = Ef mB。 凝固点降下定数は A の融解エンタルピー ΔfH、融解温度 Tf、 A のモル質量 M と気体定数 R を用いて Ef = RMTf2fH で与えられ、 一般に融解のエントロピー変化の小さい物質ほど大きくなります。 特にショウノウ camphor は、融点の高さが手ごろで、溶解性も高く、安価で昇華精製が容易なことから、 有機物の分子量決定に賞用されていました。

表 1.種々の物質の凝固点降下定数
物質融点 / °CEf/K kg mol-1物質融点 / °CEf/K kg mol-1
トルエン-95.03.55グリセリン18.23.56
1-クロロナフタレン-6.07.68ジメチルスルホキシド18.53.85
0.01.86シクロヘキサノール26.042.2
ベンゼン5.545.07フェノール40.96.84
シクロヘキサン6.720.8p-ジクロロベンゼン53.17.57
ブロモホルム8.715.0スクシノニトリル58.019.3
ジオキサン11.84.63アセトアミド80.23.92
p-キシレン13.34.31ナフタレン80.27.45
酢酸17.03.63ショウノウ178.737.8

2.沸点上昇定数

液体の物質 A に 不揮発性の物質 B を溶かしたとき、A の沸点は一般に上昇します。 B の質量モル濃度 mB が低ければ沸点上昇の大きさ ΔTbmB に比例し、 その比例係数 Eb は A 固有の量で沸点上昇定数 ebullioscopic constant と呼びます: ΔTb = Eb mB。 沸点上昇定数は A の蒸発エンタルピー ΔbH、沸点 Tb、 A のモル質量 M と気体定数 R を用いて Eb = RMTb2bH で与えらます。 表 2 に示すのは 1 atm における種々の液体の沸点と沸点上昇定数です。 一般に蒸発のエントロピー変化は物質によらずあまり変わらないので(トルートン Trouton の規則)、 モル質量を考慮すると沸点上昇定数は凝固点降下係数ほど物質による差異は大きくありません。

表 2.種々の物質の沸点上昇定数(1 atm)
物質沸点 / °CEb/K kg mol-1物質沸点 / °CEb/K kg mol-1
エチルエーテル34.42.2ベンゼン80.12.64
ジクロロメタン39.82.42シクロヘキサン80.72.92
アセトン56.11.82-プロパノール82.21.58
クロロホルム61.23.8100.00.513
メタノール64.50.86ジオキサン101.23.01
ヘキサン68.72.9トルエン110.63.4
四塩化炭素76.75.26酢酸117.93.22
酢酸エチル77.12.82クロロベンゼン131.64.36
エタノール78.21.23ニトロベンゼン210.75.2

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