電解質溶液中の電流は空間的な電位 V の変化の度合い、電場に比例することが知られており(オームの法則)、 単位面積あたりの x 方向の電流 i (電流密度)は、i = -κ dV/dx で表されます。 この比例定数 κ を電気伝導度(電導度)と呼びます。 伝導度 κ はキャリアの濃度に比例することが期待され、 電気伝導度を電解質のモル濃度 c で割ったモル電気伝導度 Λ = κ/c が、 電解質を特徴づける量として議論されます。 また電気伝導度はキャリアの運ぶ電荷にも比例すると考えられるので、 Cpx+Aqy- 型の塩について(px = qy)、 Λeq = κ/(pxc) を当量(モル)電気伝導度 equivalent (molar) electrolytic conductivity と呼び、 今もしばしば用いられています(たとえば塩化カルシウム CaCl2 では、 当量電気伝導度はモル電気電導度の 1/2 です。 モル電気電導度として当量電気伝導度を記載する時、化学式が (1/2)CaCl2 と表記されます。 これは式量が 1/2 相当ということです。 なお本によっては Λeq を単に Λ としていることがあります)。
電気伝導度を測定する際、装置定数(セル定数)を定めるのに、 精確な電気電導度 κ が定められている、質量モル濃度 0.01, 0.1, 1.0 mol/kg の塩化カリウム溶液を用います。 ここには 0, 15, 25 °C の値を示しておきます。 0 °C から 50 °C までの電気伝導度の温度依存性については、 IUPAC の技術レポートを参照してください。
なおコンダクタンスの単位 S(ジーメンス)は、認知度が低いようですが、抵抗の単位 Ω(オーム ohm)の逆数(1 S = 1 Ω-1)です。 古い本では ℧(モー mho)としてあったりします。
濃度/mol (kg-H2O)-1 | 電気伝導率/S m-1 | ||
---|---|---|---|
0 °C | 15 °C | 25 °C | |
1.0 | 6.3488 | 8.9900 | 10.8620 |
0.1 | 0.711685 | 1.04371 | 1.28246 |
0.01 | 0.077292 | 0.114145 | 0.140823 |
電解質溶液のモル電気伝導度は、十分希薄な領域(無限希釈)では、 各構成イオンのモル電気伝導度の和になります(コールラウシュ Kohlrausch のイオンの独立移動の法則)。 表 2 には種々のイオンの無限希釈でのモル電気伝導度 λ° をまとめました (先に触れた当量電気伝導度の形になっています。 単位に S cm2 mol-1 を使うのは ”歴史と伝統” です。CRC Handbook 2012によります)。
各イオンのモル電気伝導度から、種々の塩の無限希釈での電気伝導度が得られますが、この値だけから、 0.01 mol/L(式量を 100 とすると 0.1 mass% 相当)程度の溶液でも、電気伝導度を 10 % 程度の精度で推定することは、 特に多価イオンについては困難です。 たとえば硫酸マグネシウムの 25 °C、0.01 mol/L の当量電気伝導度は 89 S cm2 mol-1 で、 無限希釈の値 133 S cm2 mol-1 より3割以上低くなります (ちなみに 0.001 mol/L でも 118 S cm2 mol-1 で1割以上低く、 0.1 mol/L では 57 S cm2 mol-1 で半分以下)。
イオン | λ° / S cm2 mol-1 | イオン | λ° / S cm2 mol-1 |
---|---|---|---|
H+ | 349.65 | OH- | 198 |
Li+ | 38.66 | F- | 55.4 |
Na+ | 50.08 | Cl- | 76.31 |
K+ | 73.48 | Br- | 78.1 |
NH4+ | 73.5 | I- | 76.8 |
Ag+ | 61.9 | NO3- | 71.42 |
(1/2)Mg2+ | 53.0 | ClO4- | 67.3 |
(1/2)Ca2+ | 59.47 | CH3COO- | 40.9 |
(1/2)Cu2+ | 53.6 | HCO3- | 44.5 |
(1/3)Al3+ | 61 | (1/2)CO32- | 69.3 |
(1/3)[Co(NH3)6]3+ | 101.9 | (1/2)SO42- | 80.0 |
海水には塩化ナトリウム以外、硫酸マグネシウム等種々の塩が溶存していて、塩分濃度の精確な定義は困難です。 現在ではもっぱら UNESCO の定めた、電気伝導度を用いた次式で定義される塩分スケール S が一般に用いられています (実用塩分目盛 practical salinity scale 1978 と呼ばれます。 日本海洋データセンターの UNESCO Technical Paper in Marine Science の中に技術論文(No. 36)が収められています):
S = a0 + a1 K1/2 + a2 K + a3 K3/2 + a4 K2 + a5 K5/2
(a0 = 0.0080, a1 = -0.1692, a2 = 25.3851, a3 = 14.0941, a4 = -7.0261, a5 = 2.7081)
ここで K は大気圧下 15 °C での海水の電気伝導度の、3.24356 mass% 塩化カリウム溶液の同条件での電気伝導度に対する比です。 係数は K = 1 のときに S = 35.0000 となるように定められていて、 かつての ‰(パーミル。1/1000)単位での塩分表記と整合させるようにしてあります。