2022.10
吉村洋介
化学実験 資料編

有機溶媒と水の相互溶解度・有機物と水の分配平衡

ここでは学生実験で出会う、 水と酢酸エチルなど、互いに混じりあわない(非相溶)液体の相挙動と、 水相、有機相への分配に関わって、 種々の物質の水-オクタノールへの分配係数(疎水性パラメータ log P)について、 まとめておきます。

1.有機溶媒と水の相互溶解度

水とエーテルは互いに溶けあわないといっても、 水にエーテルが、エーテルに水が少しは溶けます。 また水相とエーテル相が共存する時、 それぞれの相の組成は一定です。 たとえば水と n-ブタノールを、氷冷して質量比で 1:1 で混ぜると、 ブタノールを 10 mass% 含む水相と、水を 20 mass% 含む有機相に、 質量比 3:4 で分離します(「てこの法則」)。 なお塩類があると、通常、相互溶解度は減少します(塩析)。

ここでは学生実験で出会う有機溶媒と水の組み合わせについて、 常圧、0 °C から 40 °C での、 平衡に共存する水相、有機相中の有機溶媒の質量百分率 mass% をまとめておきます (表 1 はマズレンコ「溶媒抽出便覧」(日ソ通信社1974)、 他はIUPAC-NIST の溶解度データベース によります)。

表 1.エチルエーテルと水
(有機溶媒の質量分率 mass%)
温度/ ℃水相有機相
011.6 99.0
108.7 98.9
206.5 98.8
305.1 98.7
404.5 98.5
表 2.酢酸エチルと水
(有機溶媒の質量分率 mass%)
温度/ ℃水相有機相
09.8 97.7
108.7 97.4
208.0 97.0
307.1 96.5
406.5 96.1
表 3.クロロホルムと水
(有機溶媒の質量分率 mass%)
温度/ ℃水相有機相
01.0 100.0
100.999.9
200.899.9
300.899.9
400.899.9
表 4.ジクロロメタンと水
(有機溶媒の質量分率 mass%)
温度/ ℃水相有機相
02.199.9
101.999.9
201.799.8
301.799.8

表 5.1-ブタノールと水
(有機溶媒の質量分率 mass%)
温度/ ℃水相有機相
010.4 80.3
108.980.4
207.880.0
307.179.4
406.678.6

2.水と 1-オクタノール間の分配係数

有機物の水相と有機相への分配係数は、 生理活性の予測などに有用であることがよく知られています。 特に水と 1-オクタノールの間での分配係数 P (= [オクタノール相中の濃度]/[水相中の濃度])はよく利用され、 たいていその常用対数 log P の形で登場します (しばしば単に logP とも表記され、「疎水性パラメータ」とされます)。 学生実験では、直接的には HPLC の保持時間の推定に利用することが多いでしょうが、 むしろ逆に保持時間から log P を評価することも行われます。 物質の化学構造から log P を推算する手法も種々開発されており、 今日のたいていの化学式描画ソフト等に実装されています。

ここでは種々の典型的な物質の log P をまとめておきます (CRC Handbook of Physics and Chemistry 2012 によります)。

表 6.水と1-オクタノール間の分配係数(疎水性パラメータ)
物質化学式log P
AcetoneCH3COCH3-0.24
AnilineC6H5NH20.90
BenzeneC6H62.13
BiphenylC12H103.76
CyclohexaneC6H123.44
CyclohexanolC6H11OH1.23
CyclohexanoneC6H10O0.81
Diethylamine(C2H5)2NH0.58
Diethyl ether(C2H5)2O0.89
EthanolCH3CH2OH-0.30
Ethyl acetateCH3COOC2H50.73
EthylamineC2H5NH2-0.13
HeptaneC7H164.50
HexaneC6H144.00
2-MethylanilineC6H4(NH2)CH31.32
Methyl t-butyl ether(CH3)3COCH30.94
NaphthaleneC10H83.34
NitrobenzeneC6H5NO21.85
1-OctanolC8H18O3.07
PhenolC6H5OH1.48
TetrahydrofuranC4H8O0.46
Triethylamine(C2H5)3N1.45

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