2022.10
吉村洋介
化学実験 資料編

標準酸化還元電位

一般に化学反応を二種の酸化還元反応(半電池反応)の間の電子の授受として、 表現することができ、反応の標準ギブズエネルギー変化 ΔG° は、 各半電池反応の ΔG°hc で表すことができます。 次の A を還元して An- にする半電池反応を考えましょう。

A + n e- ⇌ An-

電気化学的な操作の一つの特徴は、電子 e- の電位(フェルミ準位)を変えることで、 標準ギブズエネルギー変化 ΔG° を調整することができることにあります。 半電池反応の ΔG° が 0 になる電位を、 この半電池反応の標準還元電位 E° と呼びます (F はファラデー定数。電子の電荷が負であることに注意)。

ΔG°hc = nF E°

標準還元電位 E° の基準となる電位としては、 次の水素の還元反応がとられます(水素標準電極の形で実現されます)。

2H+ + 2 e- ⇌ H2

膨大な数の酸化還元反応について、標準還元電位が定められていますが、 ここでは学生実験で登場するような反応について、 標準還元電位をまとめておきます (CRC Handbook of Physics and Chemistry 2012 によります)。 なお 表中、phen は 9,10-フェナントロリン の略号です。

表 1.標準還元電位(25 °C)
反応系E° / V反応系E° / V
Li+ + e- ⇌ Li-3.040Cu+ + e- ⇌ Cu0.521
K+ + e- ⇌ K-2.931I2 + 2e- ⇌ 2I-0.5355
Ca2+ + 2e- ⇌ Ca-2.868I3- + 2e- ⇌ 3I-0.536
Na+ + e- ⇌ Na-2.71MnO4- + e- ⇌ MnO42-0.558
Mg2+ + 2e- ⇌ Mg-2.372O2 + 2H+ + 2e- ⇌ H2O20.695
Al3+ + 3e- ⇌ Al-1.662Fe3+ + e- ⇌ Fe2+0.771
Cr2+ + 2e- ⇌ Cr-0.913Ag+ + e- ⇌ Ag0.800
Zn2+ + 2e- ⇌ Zn-0.7622NO3- + 4H+ + 2e- ⇌ N2O4 + 2H2O0.803
Cr3+ + 3e- ⇌ Cr-0.744NO3- + 3H+ + 2e- ⇌ HNO2 + H2O0.934
S + H2O + 2e- ⇌ HS- + OH--0.478NO3- + 4H+ + 3e- ⇌ NO + 2H2O0.957
Fe2+ + 2e- ⇌ Fe-0.447Br2(liq) + 2e- ⇌ 2Br-1.066
Ni2+ + 2e- ⇌ Ni-0.257IO3- + 6H+ + 6e- ⇌ I- + 3H2O1.085
CO2 + 2H+ + 2e- ⇌ HCOOH-0.199Fe(Phen)33+ + e- ⇌ Fe(Phen)32+1.147
AgI + e- ⇌ Ag + I--0.152O2 + 4H+ + 4e- ⇌ 2H2O1.229
Sn2+ + 2e- ⇌ Sn-0.138MnO2+ 4H+ + 2e- ⇌ Mn2+ + 2H2O1.224
Pb2+ + 2e- ⇌ Pb-0.126Cl2(gas) + 2e- ⇌ 2Cl-1.358
CuI2- + e- ⇌ Cu + 2I-0.00Cr2O72-+ 14H+ + 6e- ⇌ 2Cr3+ + 7H2O1.232
2H+ + 2e- ⇌ H20.000BrO3- + 6H+ + 6e- ⇌ Br- + 3H2O1.423
S2O62- + 2e- ⇌ 2S2O32-0.08PbO2 + 4H+ + 2e- ⇌ Pb2+ + 2H2O1.455
S + 2H+ + 2e- ⇌ H2S(aq)0.142MnO4- + 8H+ + 5e- ⇌ Mn2+ + 4H2O1.507
Cu2+ + e- ⇌ Cu+0.1532HClO + 2H+ + 2e- ⇌ Cl2+ 2H2O1.611
AgCl + e- ⇌ Ag + Cl-0.222H2O2+ 2H+ + 2e- ⇌ 2H2O1.776
Cu2+ + 2e- ⇌ Cu0.342S2O82-+ 2e- ⇌ 2SO42-2.010
Fe(CN)63- + e- ⇌ Fe(CN)64-0.358F2 + 2e- ⇌ 2F2.866
今日では還元反応についての電位をとるのが標準ですが、 酸化反応(A ⇌ An+ + n e-) の電位を採用する流儀もあります(酸化電位。符号が正負逆になる)。 特に古い文献を見る時には注意が必要です。

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