2022.10
吉村洋介
化学実験 資料編

溶解度積

難溶性塩類 MmNn の溶解平衡 MmNn ⇌ mMn+ + nNm- について、

Ksp = [Mn+]m [Nm-]n

を溶解度積と呼びます(溶液中のイオンの標準状態の濃度は 1 mol/L をとります)。 表 1 には学生実験で出会うような、 種々の難溶性・不溶性塩について、25 °C での溶解度積の対数 pKsp = -log Ksp をとったものを示します (データは CRC Handbook of Physics and Chemistry 2012 によります)。 なお * を付けた硫化物の溶解度積は、 S2- ではなく H2S についてのものなので注意してください。

表 1.種々の塩類の溶解度積(25 °C)
pKsppKsp
Ag2CrO411.95 Fe(OH)216.31
AgCl9.75 Fe(OH)338.55
AgBr12.27FeS*-2.8*
AgI16.07 Mg(OH)211.25
BaSO49.97 MgF210.29
BaCO38.59MgCO3·3H2O5.62
CaF210.46MgC2O4·2H2O5.32
Ca(OH)25.30 MnC2O4·2H2O6.77
CaC2O4·H2O8.63 MnCO310.65
CaCO38.47 PbCl24.77
CaSO4·2H2O4.50 PbI28.01
CuC2O49.35 PbSO47.60
CuCl6.76 PbS*6.5*
CuBr8.20ZnC2O4·2H2O8.86
CuI11.90 ZnCO3·H2O10.27
CuS*15.2*ZnS*3.7*
* 硫化物 MS については S2- というイオン種が O2- 同様に、 水溶液中でほとんど存在しないことから、溶解度積を [M2+][S2-] で定義するのは適切ではなく、 ここで示しているのは MS + 2H+ ⇌ M+2 + H2S という反応に対応する Kspa(酸中の溶解度積 Ksp in acid)です。

Kspa = [M+2][H2S]/[H+]2

古い文献(1990年ごろ以前)には、硫化水素の第2酸解離定数(HS- ⇌ H+ + S2-) をpK2 ≈ 13として溶解度積を [M2+][S2-] で与えているものがあり、 今も混乱が見られますが、 今日的には pK2 ≈19 程度と推定されています (R. J. Myers, J. Chem. Educ. 63, 687 (1986))。

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