流体の中で流速が不均一であると、摩擦力が生じて流速が均一になろうとします。 おおむね摩擦力は流れの面に沿って働き、単位面積あたりに働く摩擦力の大きさは、 流速の空間的な変化の度合い、速度勾配に比例することが知られています(ニュートンの粘性法則)。 流れの x 方向の速度が y 方向に変化している時、 y に垂直な単位面積あたり x 方向に働く摩擦力 Fxy は、 Fxy= η dvx/dy で表されます。 この比例定数 η を粘度と呼びます。 ここでは種々の気体の粘度、液体の粘度と 水の粘度の温度依存性の値をまとめておきます。 なおこのニュートンの粘性法則に従わない流体(生クリームなど)も多く、 ”粘さ” はなかなかに奥深い現象です。
粘度を粘性率とも呼びます(英語では動粘度 kinematic viscosity と区別して dynamic viscosity とされていることがあります)。 またズリに由来することを明示して、ズリ粘度 shear viscosity とも呼ばれます。 なお理学方面では粘度の記号に η を使うことが多いですが、 工学方面などでは μ が使われます(ISQ でもμ が採用されています)。
表 1 に 300 K におけるさまざまな気体の粘度をまとめておきます (CRC Handbook of Physics and Chemistry 2012 によります)。 気体分子運動論で学ぶように、 気体の粘度は圧力にほとんど依存せず、温度を上げると大きくなります。 また分子量が同じなら、分子間相互作用が大きい方が、粘度は小さくなります。
物質(気体) | η/μPa s | 物質(気体) | η/μPa s |
---|---|---|---|
空気 | 18.5 | 水蒸気 | 9.8 |
窒素 | 17.9 | アンモニア | 10.2 |
酸素 | 20.7 | メタン | 11.1 |
二酸化炭素 | 15.0 | エタン | 9.4 |
ヘリウム | 19.9 | プロパン | 8.2 |
アルゴン | 22.7 | ブタン | 7.5 |
表 2 に 25 °C、1 atmにおけるさまざまな液体の粘度をまとめておきます (CRC Handbook of Physics and Chemistry 2012 によります)。
水銀のように、体感する ”粘さ” と数値が必ずしも照合しないものもありますが、 実際の流れの挙動には密度の大きさが深くかかわっています。
物質(液体) | η/mPa s | 物質(液体) | η/mPa s |
---|---|---|---|
ジエチルエーテル | 0.224 | トルエン | 0.560 |
ヘキサン | 0.300 | ベンゼン | 0.604 |
アセトン | 0.306 | 水 | 0.890 |
アセトニトリル | 0.369 | シクロヘキサン | 0.894 |
ジクロロメタン | 0.413 | エタノール | 1.074 |
酢酸エチル | 0.423 | 水銀 | 1.526 |
クロロホルム | 0.537 | 2-プロパノール | 2.04 |
メタノール | 0.544 | グリセリン | 934 |
常圧下では、液体の粘度は温度とともに低下します。 表 2 には、実用的にも重要な、水の粘度の温度依存性をまとめておきます。 水の 20 °C での粘度が、 1.00 mPa s(CGS 単位系では 1.00 cP(センチポアズ))であるのは、 記憶しておいてよい値です。
温度/°C | η/mPa s | 温度/°C | η/mPa s |
---|---|---|---|
0.01 | 1.791 | 50 | 0.546 |
10 | 1.306 | 60 | 0.466 |
20 | 1.002 | 70 | 0.404 |
25 | 0.890 | 80 | 0.354 |
30 | 0.797 | 90 | 0.314 |
40 | 0.653 | 100 | 0.282 |