2020.5
吉村洋介
化学実験法II 問題集 最小2乗法 解説

問 5

T / K1000 k / s-1
300.02.19
310.04.33
320.08.83
330.017.1

5.【15年度試験問題から】ある1次反応について温度Tを変えて反応速度定数kを測定し表のような結果を得た。 速度定数の相対誤差は、標準偏差にして3.0 %で一定であるという。 速度定数 k の温度依存性が、アレニウスの式

k = A exp(-Ea/RT)

で精度よく表現できる(Aは前指数因子、Eaは活性化エネルギー、 Rは気体定数8.31 J K-1 mol-1)ものとしてこのデータを解析した以下の文章を読み、 問いに答えよ。


アレニウスの式から、x = 1000/(T/K)、y = ln(1000 k / s-1)とすると

y = a x + b

という直線関係が成立する。 (1) 速度定数の相対誤差が同じだから、y の誤差(標準偏差)は x によらず一定と見なせ、 係数 a と b はよく使われる最小2乗法の公式

\[ a = \frac{N S_{xy} - S_x S_y}{N S_{xx} - S_x^2}, ~~ b = \frac{S_y - a S_x}{N} \]

を用いてa =  イ 、b =  ロ  と評価できる。 またyの分散を σ2とすると、a、bの分散 σa2、 σb2 はそれぞれ次式

\[ \sigma_a^2 = \frac{N}{N S_{xx} - S_x^2} \sigma^2, ~~ \sigma_b^2 = \frac{S_{xx}}{N S_{xx} - S_x^2} \sigma^2 \]

で評価できるので、a 、bの標準偏差はそれぞれ  ハ  ニ  になる。 もとのアレニウスの式に立ち返ると、 前指数因子A、活性化エネルギーはそれぞれ

ln A/s-1 =  ホ  ±  ヘ 

Ea / kJ mol-1 =  ト  ±  チ 

ということになる(± 以下は標準偏差)。

さて得られたアレニウスの式を用いて、T = 315 Kの場合について速度定数を推定した時の誤差を考えよう。 これは x’ = (1/(T/K) - 1/315)として、データを y = px’ + q という式に当てはめた時の q の誤差に相当し、 315 Kでの相対誤差は標準偏差にして  リ  %になる。 この時の p、q の分散の値 σp2、σq2を用い、 (2) 350 Kにおける速度定数の推定値の分散は σp2 (1/350 - 1/315)2 + σq2 でおよそ評価でき、 350 Kでの相対誤差は標準偏差にして ヌ %になる。

5-1.文中の イ~ヌ に当てはまる適切な数値を記せ。

5-2.下線部 (1) が成立する根拠を教員(Yの方)にもわかるように説明せよ。

5-3.下線部 (2) のように言える根拠を教員(Yの方)にもわかるように説明せよ。


解答例

5-1

xy
3.3330.784
3.2261.466
3.1252.178
3.0302.839

x = 1000/(T/K)、y = ln(1000 k / s-1)としてデータを整理すると、 右の表のようになる。 ここから y = a x + b という式に最小2乗法で当てはめて係数を求めると

a = -6.80
b = 23.43

となる。  【イ】、【ロ】

パラメーターの誤差の評価式に代入して、a、b の標準偏差は、 次の問5-2 に示すように y の標準偏差が σ = 0.03 なので

σa2 = 19.6 σ2
σa = 4.4 σ = 0.13

σb2 = 198 σ2
σb = 14 σ = 0.42

となる。  【ハ】、【ニ】

活性化エネルギーと前指数因子は、式を整理すると

ln (k/s-1) + ln 1000 = a×1000 K/T + b
ln (k/s-1) = (1000 a K)/T + b - ln 1000
= (-Ea/R)/T + ln (A/s-1)

より

Ea = (-1000 R K) a
ln (A/s-1) = b - ln 1000

なので  【ホ】【ヘ】【ト】【チ】

ln (A / s-1) = 16.52 ± 0.42
Ea / kJ mol-1 = 56.5 ± 1.1

x’ = x - 1000/315とすると、 y = p x' + q に当てはめた時、 σp = σa であり、 Sx’ はほとんど 0 なので、 σq2 ≅ (1/N) σ2 だから

σq = 0.015

であり、350 K で推定される ln k の分散は

\[ \sigma_{y}^2 = \sigma_a^2 \left( \frac{1000}{350} - \frac{1000}{315} \right)^2 + \sigma_q^2 = 0.101 \times \sigma_a^2 + \sigma_q^2 = 2.2~\sigma^2 \]

なので σy = 0.045。設問のように%で表示すれば 【リ】【ヌ】

315 Kでの相対誤差 1.5 %
350 Kでの相対誤差 4.5 %

5-2

k の相対誤差が一定だから

k/k)2 = σ2 = const。

dy/dk = 1/k なので、誤差の伝播則から

σy2 = (dy/dk)2 σk2 = (1/k2) σk2 = (σk/k)2 = σ2 = const

であり、y の分散をx = 1000 K/Tによらず一定として扱える。

5-2

係数 p と q の共分散は

\[ \langle \langle p q \rangle \rangle = -\frac{S_{x'}}{N S_{x'x'} - S_{x'}^2} \sigma^2 \]

で表される。 x’ = x - 1000/315とすると、 N Sx'x' - Sx'2 = N Sxx - Sx2 である一方、 Sx’はほぼ 0 になり、pとqが独立とみなせる。


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