2020.5
吉村洋介
化学実験法II 問題集 最小2乗法 解説

問 7

7.【2011試験問題】以下の文章を読み、問に答えよ。

25 °C で濃度を変化させて、水相とベンゼン相に分配される塩化水銀(II)の平衡濃度 cW、cB を測定して次の結果を得た(1 mM = 0.001 mol/L):

cW/mM233158111.264.87.381.84
cB/mM17.312.228.865.240.6180.155

水中で塩化水銀はほとんど解離せず HgCl2 として溶存し、 一部会合してHg2Cl4となっており、 ベンゼン中では HgCl2 として溶けていると考えよう。 すると水中の塩化水銀濃度 cW は単量体濃度 cW(M) と二量体濃度 cW(D) の和 cW(M) + 2cW(D) で表され、 ベンゼン中濃度 cB は単量体濃度 cB(M)に等しい。 ここで(1)水とベンゼンの間の単量体の分配定数 Kp、 (2) 水中の 2HgCl2 ⇔ Hg2Cl4の平衡定数 Kd を考えると、 それぞれ次の関係が成り立つ:

Kp = cW(M) / cB、Kd = cW(D) / cW(M)2

したがって次式が成り立つ:

 cW/cB =  イ  +  ロ  cB

つまりcW/cB を cB に対してプロットすれば直線関係が得られ、 切片と勾配からKp、Kdが定まる。 実際にプロットすると図のような直線関係が得られた。


7-1.文中 イ、 ロ にあてはまる係数を Kp、Kd を用いて表わせ。

7-2.図のプロットに対し最小2乗法を用いて イ、ロ を求めたところ、イ =11.86、ロ = 0.089 / mM であった。 2量化平衡定数 Kd を求めよ。

7-3.最小2乗法で推定された イ、ロ の標準偏差は イ が0.04、ロ は 0.004 /mMであった。 上で得られた2量化平衡定数 Kd の標準偏差を評価せよ。(イ と ロ が統計的に独立でないことに注意)


解答例

7-1

水層中の塩化水銀の全濃度 cW の式について、与えられた平衡関係を整理すると

cW = cW(M) + 2cW(D)
= cW(M) + 2 Kd cW(M)2
= Kp cB + 2Kd [Kp cB]2

より  【イ】【ロ】

cW/cB = Kp + 2Kd Kp2 cB

7-2

先に得た関係式から、値を代入すれば

Kd = ロ/2 Kp2 =ロ/ 2イ2
= 3.16 × 10-4 mM-1

7-3

y = ax + b という式に最小2乗法で当てはめて推定されるパラメータ a、b について、 a の分散 ⟨⟨ a2 ⟩⟩ と共分散 ⟨⟨ ab ⟩⟩ の間には、 次の関係が成立する( \(\bar{x}\) はxの標本平均)。

\[ \langle \langle ab \rangle \rangle = -\bar{x} \langle \langle a^2 \rangle \rangle \]

表の cBの平均は 7.4 mM なので、

⟨⟨ ab ⟩⟩ = -7.4 mM × (0.004 mM-1)2 = -1.2 × 10-4 mM-1

2量化平衡定数は a/2b2 で評価されている。 a° + δa、a° + δa という不確かさを含む量として a/2b2 を書くと

Kd = a/2b2 ≈ (a°/2b°2)(1 + (δa/a°) - 2(δb/b°))

したがって得られる二量化の平衡定数の分散 ⟨⟨ Kd2 ⟩⟩ は

⟨⟨ Kd2 ⟩⟩/K°d2
= ⟨⟨ a2 ⟩⟩/a°2 - 4 ⟨⟨ ab ⟩⟩/(a° b°) + 4⟨⟨ b2 ⟩⟩/b°2
= (0.004/0.089)2 + 4 × 1.2 × 10-4/(0.089 × 11.86) + 4 × (0.04/11.86)2
= 2.0 × 10-3 + 4.5 × 10-4 + 4.5 × 10-5 = 2.5 × 10-3

Kd の標準偏差はその 5 %、1.6 × 10-5 mM-1 ということになる。


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