2020.4
吉村洋介
化学実験法II 問題集 統計・検定・不確かさ 解説

問 2

2.x と y を平均と分散が等しい独立なランダム変数で、平均を μ 分散を σ2 とする。 次の(共)分散を μ と σで表せ。

⟨⟨p, q⟩⟩ ≡ ⟨p q⟩ - ⟨p⟩ ⟨q⟩ で、p と q の共分散。 文脈で誤解がなければ、⟨⟨p, q⟩⟩ を ⟨⟨pq⟩⟩ と表記することがある。 ⟨⟨x, x⟩⟩ = ⟨⟨x2⟩⟩ = σ2


解答例

x、y、z をランダム変数、a を通常の数とすると次の関係が成立: またx と y が独立なら ⟨⟨ x, y ⟩⟩ = 0。

(1) ⟨⟨ x + 3, x - 3 ⟩⟩

⟨⟨ x + 3, x - 3 ⟩⟩
= ⟨⟨ x, x ⟩⟩ + ⟨⟨ 3, x ⟩⟩ - ⟨⟨ x, 3 ⟩⟩ + ⟨⟨ 3, 3 ⟩⟩
= ⟨⟨ x, x ⟩⟩ = σ2

(2) ⟨⟨ x + y - 2μ, x + 3y ⟩⟩

⟨⟨ x + y - 2μ, x + 3y ⟩⟩
= ⟨⟨ x , x ⟩⟩ + ⟨⟨ y - 2μ, x ⟩⟩ + ⟨⟨ x - 2μ, 3y ⟩⟩ + ⟨⟨ y, 3y ⟩⟩
= σ2 + 3σ2 = 4σ2

(3) ⟨⟨ x + y, x - y ⟩⟩

⟨⟨ x + y, x - y ⟩⟩
= ⟨⟨ x , x ⟩⟩ + ⟨⟨ y, x ⟩⟩ - ⟨⟨ y, x ⟩⟩ - ⟨⟨ y, y ⟩⟩
= σ2 - σ2 = 0

(4) ⟨⟨ xy, xy ⟩⟩

⟨⟨ xy, xy ⟩⟩
= ⟨x2y2⟩ - ⟨xy⟩2
= ⟨x2⟩ ⟨y2⟩ - ⟨x⟩2⟨y⟩2
= (σ2 + μ2)2 - μ4
= σ4 + 2μ2σ2


問題の背景

分散・共分散に関わる計算を取り上げました。 ここで採用している ⟨⟨p, q⟩⟩ (≡ ⟨p q⟩ - ⟨p⟩ ⟨q⟩)という記法は、 van Kampen が用いていてなかなか便利なのですが(N. G. van Kampen, "Stochastic processes in physics and chemistry," 3rd ed, Elsevier 2007。 初版は1981。この本には苦しめられました)、 あんまり使っている人を見かけないので、せいぜい宣伝しようと思っています。

この記法が便利なのは、あたかも普通の代数演算のようにことが進むところです。 解答例では丁寧に事を進めていますが、たとえば (3) なら

⟨⟨ x + y, x - y ⟩⟩ = ⟨⟨ (x + y)(x - y) ⟩⟩ = ⟨⟨ x2 - y2 ⟩⟩ = ⟨⟨ x2 ⟩⟩ - ⟨⟨ y2 ⟩⟩ = 0

といった具合に、⟨⟨p, q⟩⟩ = ⟨⟨p q⟩⟩ としても、罰は当たりません。 2次までで話が済むなら、特に変数が多くなってくると、次のようにかなり省力化が図れます(x, y, z は独立で等分散とする。2乗の項以外は 0 になる)。

⟨⟨ x + y - z -1, x - 2y + z +3 ⟩⟩ = ⟨⟨ x2 - 2y2 - z2 ⟩⟩ = - 2σ2

ただし高次の項が入ってくると、上の問題 (4) のように単純ではなく、 「生兵法は怪我の元」となって、要注意です。


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