2020.4
吉村洋介
化学実験法II 問題集 統計・検定・不確かさ 解説

問 6

6.【2018年度試験問題から】以下の文章を読み問いに答えよ。

Uくんが試験に出るかもしれないと、次の問題を解こうとしていると、 横から Y と Hくんがのぞき込んで議論が始まり、そこに大先輩の Q 先生がやってきた:
10 kgの米の入った袋に、米粒の平均の重さが25.0 mgであると表示されていた。 このことを確かめるために袋から米粒を10 粒取り出し、 一粒ずつ重さをはかったところ平均が23.5 mg、 標本標準偏差が2.0 mgだった。 この結果から5%の有意水準で表示が間違っているといえるかどうか判断せよ。

6-1.文中の イ~ヘに当てはまる適切な数字・数式を記せ。

6-2.Yの論旨に沿って、下線部 (1) で計算される z が自由度 ( ロ ,  ニ  )のF分布に従うと考えられることを示せ。

6-3.Q先生の説明の下線部 (2) で、なぜ棄却域を両側に取らず片側に取るのか、 対立仮説H1の下で H0 の棄却率を最大化する立場から、 教員(Yの方)にも分かるように説明せよ。

6-4.標準正規分布に従う変数 u と自由度 f の χ2 分布に従う変数 vf を取った時、 u/\(\sqrt{v_{\rm{f}}/f}\) が自由度 f の t分布に従うことに注意して、 下線部 (3) が成り立つことを教員(Yの方)にも分かるように説明せよ。


解答例

6-1

分散 σ2 の同じ確率分布に従う独立な 10 個のデータ {xi}の和の分散は、

⟨⟨ (Σ xi)2 ⟩⟩ = Σ ⟨⟨ xi2 ⟩⟩ = 10 σ2

なので標本平均 Σ xi/10 の分散は ⟨⟨ (a x)2 ⟩⟩ = a2 ⟨⟨ x2 ⟩⟩ だから σ2/10 になる。
【イ】

中心極限定理から、10粒の重さの標本平均 m は、帰無仮説 H0 の下で、 平均が25.0 mg、分散が σ2/10 に従うので、 (m - 25.0)/(σ\(\sqrt{10}\)) は標準化正規分布 N(0, 1)に従う。 標準化正規変数を2乗したものを φ 個足したものは、自由度 φ の χ2分布に従うから、 これは1個の標準化正規変数を2乗したわけだから、自由度 1 の χ2分布に従う。
【ロ】

残差2乗和を分散 σ2 で割ったものは、 自由度 10 - 1 = 9 の χ2分布に従うから、 残差2乗和を 9 で割った標本分散に付いていうと。 σ2/9 で割ったものが、 自由度 10 - 1 = 9 の χ2分布に従うことになる。
【ハ】【ニ】

(m - 25.0)/(σ\(\sqrt{10}\)) は標準化正規分布に従い、 標本分散を σ2で割ったものは、 自由度 9 の χ2変数を 9 で割ったものになるから、 t = (23.5 - 25.0)/(2.0/\(\sqrt{10}\) ) は自由度 9 の t分布に従う。
【ホ】

この場合有意水準 s % の棄却域としては、6-3 の設問にもあるように上側 s %点を取る必要があり、 この設定では有意水準 2.5 %である。
【ヘ】

6-2

s を標本標準偏差として、計算を少しくどく書くと次のようになる。

\[ z = \frac{(x - \mu)^2}{\sigma^2 /10} \left/ \frac{s^2}{(\sigma^2 /9) \times 9} \right. = \frac{2.5^2 \times 10}{2.0^2} = \frac{22.5}{4.0} \]

6-3

対立仮説 H1 は10本の標本平均 m mg が25.0 mgからかけ離れていること。 つまり棄却域としては |25.0 - m| が大きければそれでよいので、 上側に棄却域をすべて持って来る必要がある。

6-4

t2 = u2/ [vf/f] = [v1/1]/ [vf/f] であるから、 これは F 分布の定義から自由度(1, f)の F 分布に従う。

この時、t 分布の上側・下側(t < 0)の領域は、それぞれ F 分布の上側に対応し、 t 分布の両側 2.5%点は F分布の上側5%点に移ることになる。


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