2020.4
吉村洋介
化学実験法II 問題集 統計・検定・不確かさ 解説

問 15

15.市販の乳酸(C3H6O3。分子量90.08)は一部縮合してエステルを生成しており、 一端水酸化ナトリウム溶液を加えてエステルを加水分解した後、過剰の水酸化ナトリウム量を逆滴定することで総乳酸量を決定する。 これに従い、実際に次の実験を行った:

市販乳酸を49.9 mass%に希釈した溶液を0.3731 g 取り、 加水分解のために 0.2 mol/L の水酸化ナトリウム溶液を 18.10 mL加えて加熱した。 加水分解後に 0.2008 mol/L 塩酸でフェノールフタレインを指示薬に滴定したところ 7.38 mLを要した。 一方加水分解に用いた水酸化ナトリウム溶液 10 mLをホールピペットを用いて精確に取り、 同様に 0.2008 mol/L塩酸で滴定したところ 9.26 mLを要した。

15-1.滴定操作において、常に1滴 0.04 mLずつ滴下していったものとしよう。 フェノールフタレインの変色が十分鋭敏であれば、滴下後少しでも当量点 Ve mLを超えれば滴定終点 Vt mLとして判定される。 実験的に求められる滴定終点と当量点の差 Vt - Ve の平均と標準偏差はいくらになると考えられるか。

15-2. 塩酸で水酸化ナトリウムを滴定する際の誤差が上に示したように評価され、 その他の誤差(測容器の誤差、乳酸希釈度、塩酸濃度の標定誤差等)は無視できるほど小さいとしよう。 実験結果から市販乳酸中の総乳酸比率を求め、その誤差を評価せよ。


解答例

15-1

⟨ Vt - Ve⟩ = 0.02、 ⟨⟨ (Vt - Ve)2 ⟩⟩ = 0.022/3。 標準偏差は0.0115。

15-2

0.3731 gの溶液中の乳酸量

((18.10/10 × 9.26) - 7.38) mL × 0.2008 mol/L = 9.381 mL × 0.2008 mol/L = 1.8836 mmol

乳酸含量は

(1.8836 mmol × 90.08 g/mol)/(0.3731 g × 0.499) = 0.911

より 91.1%。

滴定値の偏りによる逆滴定値の偏りは

[(18.1/10) - 1] ×0.02 mL= 0.016 mL

相対誤差としては (+0.016 mL)/9.38 mL = +0.0017。

滴定値の差の標準偏差は (18.1/10)2 + 1 ×0.0115 = 2.06×0.0115 = 0.024 mL

なので、 乳酸含量の標準偏差は相対的に 0.024/9.38 = 0.00253で、 誤差を考慮した乳酸含量は 0.913±0.003。


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