2020.4
吉村洋介
化学実験法II 問題集 輸送現象 解説

問 1

1.【14年度試験問題から】U君は試験に次の問題が出ると聞いて自宅で試しに解いてみた。 U君と妹のPちゃんについての文章を読み、問いに答えよ。

図のように2本の薄い銅製のチューブ A と B を接触させて置き、 それぞれに90 °C と 10 °C の水を反対方向に同じ流量流し熱交換を行わせる。 流量が 1 L/min の時、Aの出口の水温は 70 °C に、Bの水温は 30 °Cになったとする。

(1) 流量を半分の0.5 L/minにしたら、AとBの出口の水温はそれぞれ何 °Cになるだろうか? またさらに流量を減らし0.2 L/minにしたらどうだろう?
(2) B の流れの向きを逆転させ、Aと並行に水を流すようにしたとしよう。 流量が0.5 L/minの時、AとBの出口の水温はそれぞれ何 °Cになるだろうか? また流量を 0.2 L/minにしたらどうか?

U君がこの問題を居間のテーブルにおいていたら、 高校入試の補習から帰って来た妹のPちゃんがやってきて解きはじめた。

P:出口と入口で A が x °C 下がると、Bも同じだけ上がるわよね。 だから A と B が接触している間、A と B の間の温度差は一定で 90 - (10 + x) = 80 - x。 A の温度が下がる度合い x は、A と B の接触時間と、A と B の温度差に比例するにちがいないわ。 接触している長さを 1 として流れの速さを v とすれば、k を定数として

\[ x = \frac{k} {v} (80 - x) \]

つまり

\[ x = \frac{80 k}{v + k} \]

になるわけよね、お兄ちゃん。 \(v\) が 1 で \(x\) が 20 だから \(k\) は1/3かしら?

U:さすがはわが妹。ややこしい話を持ち出してきては、 結局アンチョコを写すしかない能のない Y やどこぞの理学部の小賢しい学生とは大違いだ。

A と B を並行に流す場合には、温度差は距離 \(y\) とともに変化する。 この場合温度差は イ で表され、 微小な距離 \(\rmd y\) を考えると接触時間は \(\rmd y/v\) だから、\(\rmd y\) 進んだ時の \(x\) の変化 \(\rmd x\) については次式が成立する:

\(\rmd x = (k \rmd y / v) \)  イ  つまり \(\rmd x / \rmd y = kv\)  イ 

だから出口におけるxの値は

\(x = 40[1 - \exp(-2k/v)]\)    (a)

P:お兄ちゃん。分子分母はdで約分できるよ・・・・・・

1-1.P ちゃんの答えも参考に、流量が0.5 L/min、0.2 L/minの時のAとBの出口の水温を求めよ。

1-2. イ に当てはまる式を入れ、(a)式が得られることを示せ。 またAとBに並行に水を流した時、流量が0.5 L/min、0.2 L/minの時のAとBの出口の水温を求めよ。


解答例

1-1.

\(k = 1/3\) なので

\(x = 80/(3v + 1)\)

したがって

1-2.

【イ】:\(90 - x - (10 + x) = 80 - 2x\)
なので

\[ \frac {\rmd x}{\rmd y} = \frac{k}{v} (80 - 2x) \]

より \(y = 0\) で \(x = 0\) なので

\[ x = 40 (1 - \exp(-2ky/v)) \]

\(k = 1/3\) だから

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