2020.4
吉村洋介
化学実験法II 問題集 輸送現象 解説

問 5

5.【15年度試験問題から】ナス型フラスコに湯を100 mL入れて、室内(室温は28 °Cでほぼ一定で無風状態)に放置した時の温度変化を、 裸で置いた時とアルミホイルで包(くる)んだ時とで比較した結果を図に示す。 この冷却挙動を考察した以下の文章を読み、問いに答えよ。

ニュートンの冷却則によると、温度\(T\)の変化は外気温 \(T_{\rm{e}}\) との温度差に比例する。

\[ \frac{\rmd T}{\rmd t} = -k (T - T_{\rm{e}}) \]

\(t\) = 0で \(T = T_0\)とすると温度変化は次式のように表される:

\(T\) = \(T_{\rm{e}}\) +   イ  

実際にデータに当てはめてみると、当てはめは非常によく、 係数 \(k\) はアルミホイルで包むことで 4.1×10-4 s-1 から2.2×10-4 s-1 にほぼ半分になっている。
 この結果を熱伝導の立場から少し詳細に考えてみよう。
 ナス型フラスコを直径 7.0 cmの球で、内部の熱伝導は十分大きく温度は均一であるとする。 湯を入れたフラスコの熱容量をおよそ 420 J K-1とすると、 フラスコ表面からの熱伝達率は、 裸の時は ロ  W m-2 K-1、 アルミホイルで包んだ時は ハ  W m-2 K-1 であったことになる。 フラスコからの放熱には、主に周りの空気との間の自然対流による熱伝導によるものと、熱輻射によるものがある。 熱輻射による熱伝達率は、最初の湯の温度と室温の平均温度を \(T_\rm{m}\)における値を代表値としてとれば、 ステファン-ボルツマン定数を σ として ニ  で評価できる(σ = 5.67×10-8 W m-2 K-4)。 アルミホイルで包んだことによる熱伝達率の変化は、近似の粗さを考えると、 おおむね { A:熱輻射による熱伝達が遮断されたため、金属表面で自然対流が妨げられるため} と見なせる。 フラスコをアルミホイルの代わりに綿布で一重に包んだとしよう。 綿布の熱伝導度はおよそ 0.08 W m-1 K-1で厚みは 0.3 mm、 フラスコと綿布の間の空気層の厚みはおよそ0.5 mmで、空気の熱伝導度は0.026 W m-1 K-1程度としよう。 裸のフラスコを綿布で包むことで外気との間の自然対流による熱伝達率が変わらないとすると、熱伝達率は約 ホ  %減少すると考えられ、 アルミホイルで包むより保温効果は { B: よくない、よい} 。 綿布は黒体として扱えるものとする。

5-1.文中の イと ニ には適切な数式、ロ、ハ、ホには適切な数値を記し、{ A }、{ B }については適切な語を選べ。

5-2.上ではナス型フラスコを綿布で一重に包んだが、二重にすると熱伝達率は裸のフラスコに比べてどれだけ小さくなるか。またアルミホイルを二重にするとどうか。


解答例

5-1.

ニュートンの冷却則から、 \(T\) = \(T_{\rm{e}}\) + \((T_0 - T_{rm{e}}) \exp(-kt)\)
【イ】

ステファン-ボルツマンの法則から、温度 \(T_1\) と \(T_2\) の間の熱輻射による輻射熱は、\(|T_1 - T_2| \ll T_2\) なら
\(\sigma T_2^4 - \sigma T_1^4 = \sigma (T_2^4 - T_1^4) \approx \sigma (\rmd T^4/\rmd T)_{T_{\rm{m}}} (T_2 - T_1) = 4 \sigma T_{\rm{m}}^3 (T_2 - T_1)\)
より、熱伝達率は \(4 \sigma T_{\rm{m}}^3\) で評価できる。
【ニ】

フラスコの表面積 \(S\) は π × (7 cm)2 = 154 cm2。 フラスコの熱伝達率 h は冷却則の放冷係数 k と 熱容量 C を用いて

\[ h = \frac{C k}{S} = \rm{\frac{420 J~K^{-1}}{154 ~ cm^2}} k = 2.7 × 10^4 \rm{J~ m^{-2} ~K^{-1}} k \]

フラスコが裸の時は、\(h = 11.2~ \rm{W~ m^{-2} ~K^{-1}}\)
【ロ】
アルミホイルでくるんだ時は、\(h = 6.0~ \rm{W~ m^{-2} ~K^{-1}}\)
【ハ】

黒体と見なした時の熱輻射による熱伝達率は平均温度が60 °C程度であるとして、

\(4 \sigma T_{\rm{m}}^3\) = 4×5.67×10-8 ×3333 W m-2 K-1 = 8.4 W m-2 K-1

近似の粗さを考えれば、 これはアルミホイルでくるんだことによる熱伝達係数の低下量(5.2 W m-2 K-1)に相当すると考えてよいだろう。
{A:熱輻射による熱伝達が遮断されたため}

フラスコ表面|← 空気層 →|← 綿布 →|← 外気
という構成で考える。

空気層の熱伝達率 hA
hA = (0.026 W m-2 K-1)/(0.5 mm) + 熱輻射 = (52 + 8) W m-2 K-1 = 60 W m-2 K-1
綿布の熱伝達率 hB は hB = (0.08 W m-1 K-1)/(0.3 mm) = 270 W m-2 K-1
綿布と外気の間の熱伝達率 hC は裸の場合と同じとして
hC = 11.2 W m-2 K-1

全体としての熱伝達率 h は
1/h = 1/hA + 1/hB + 1/hC = (0.017 + 0.004 + 0.089) W-1 m2 K
h = 9.1 W m-2 K-1
したがって裸の場合と比較すると
h/hC = 0.81
より、綿布でくるむことで 20 %程度熱伝達率は低下すると考えられる。
【ホ】
またアルミホイルでくるんだ時より熱伝達率は大きく、保温効果は
{ B: よくない}

5-2.

フラスコ表面|← 空気層 →|← 綿布 →|← 空気層 →|←綿布 →|← 外気
という構成で考える。 前問と同様に考えて 全体としての熱伝達率 h は

1/h = 2/hA + 2/hB + 1/hC = (0.034 + 0.008 + 0.089) W-1 m2 K

h = 7.6 W-1 m2 K したがって裸の場合と比較すると
h/hC = 0.68
より、綿布で2重にくるむことで、裸の時より 30 %程度熱伝達率は低下すると考えられる(ただし空気層の厚み次第で変動)。

アルミホイルを二重にした時、ホイルをきちんと巻いて空気層があまり存在しないなら、熱伝達率は変わらないだろう。

もしゆるく巻いて空気層が1 mm 程度あれば、空気層の熱伝達率は
hA = (0.026 W m-2 K-1)/(1 mm) = 26 W m-2 K-1
なので、全体としての熱伝達率 h は

1/h = (1/26 + 1/6.0) W-1 m2 K

より h = 4.9 m-2 K-1 で 20 %ぐらい低下する。

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