2020.4
吉村洋介
化学実験法II 問題集 輸送現象 解説

問 10

10.一般に流体系での拡散には、対流が大きな役割を果たす。

右図のように室温付近で空気 A 中に長さ \(L\) の細長い管を介してエーテル \(B\) の蒸気が定常的に拡散する場合を考えよう。 管中のある面を単位時間、単位面積当たり通過するエーテルの物質量(広義のエーテル拡散流束)\(J_{\rm{B}}\) は、 濃度勾配に比例する狭義の拡散流速 \(j_{\rm{B}}\) と、流速 \(u\) の巨視的な流れに沿った対流による拡散流速 \(n_{\rm{B}}\) の和として評価できる:

\[ J_{\rm{B}} = j_{\rm{B}} + n_{\rm{B}} ~~~ \mbox{(a)} \]

狭義の拡散流速 \(j_{\rm{B}}\) はフィックの法則から次式で表され

\[ j_{\rm{B}} = - D \frac{\partial c_{\rm{B}}}{\partial z} ~~~ \mbox{(b)} \]

対流による拡散流速\(n_{\rm{B}}\)は、巨視的な流速\(u\)にエーテル濃度\(c_{\rm{B}}\)をかけたもの\(u c_{\rm{B}}\)に等しい。 ここで問題は巨視的な流速 \(u\) であるが、定常的な拡散なので空気Aの流れは存在しないはずで、 巨視的な流速\(u\)は、広義のエーテル拡散流束 \(J_{\rm{B}}\) によって引き起こされる巨視的な流れの速度に等しく、次式が成り立つ:

\[ u = \frac{1}{c_{\rm{A}} + c_{\rm{B}}} J_{\rm{B}} ~~~ \mbox{(c)} \]

管内の圧力 \(P\) ・温度 \(T\) は一定と考えられるので、空気とエーテルの濃度の和 \(c_{\rm{A}} + c_{\rm{B}} = P/RT = c\) は一定であり(\(R\) は気体定数)、 エーテルのモル分率を \(x (= c_{\rm{B}}/c) \) とすると広義のエーテル拡散流束 \(J_{\rm{B}}\)について次式が成り立つ

\[ J_{\rm{B}} (1 - x) = - D c \frac{\partial x}{\partial z} ~~~ \mbox{(d)} \]

10-1.式(c)が成り立つことを教員 Y にもわかる程度に説明せよ。

10-2.式(d)を\(z = 0\)で \(x = x_0\)、\(z = L\) で \(x = 0\) という境界条件の下で解いて、

10-2a.広義のエーテル拡散流束\(J_{\rm{B}}\)が次式で与えられることを示せ。

\[ J_{\rm{B}} = - \frac{D c}{L} \ln (1 - x_0) \]

10-2b.管内のエーテルのモル分率 \(x\)、および狭義の拡散流速 \(j_{\rm{B}}\) が広義のエーテル拡散流束 \(J_{\rm{B}}\) に占める割合が、 \(z\) とともにどのように変化するかを、\(x_0 = 0.1\)、\(x_0 = 0.5\) の場合について図示せよ。


10-1.

空気の流れはないので

JA = jA + cAu = 0

が成り立っているはず。また狭義の拡散流束については B が拡散するのと同じだけ A の拡散が生じることが期待される

jA = -jB

したがって

JA + JB = JB = (jA + jB) + (cA + cB)u = (cA + cB)u

より

u = JB/(cA + cB)

10-2a.

\[ J_{\rm{B}} = - Dc \frac{1}{1 - x} \frac{\partial x}{\partial z} = Dc \frac{\partial \ln(1- x)}{\partial z} \]

から

\[ \int_0^L J_{\rm{B}} \rmd z = J_{\rm{B}} L = Dc \ln \frac{1 - x(L)}{1 - x(0)} = -Dc \ln (1 - x_0) \]

10-2b.


輸送現象のページへ