2020.4
吉村洋介
化学実験法II 問題集 輸送現象 解説

問 12

12.【15年度試験問題から】液体中での沈降速度を利用して、炭酸カルシウム(カルサイト)粉末の粒径分布を調べる実験についての以下の文章を読み、問いに答えよ。

図のように、シリンダーの中に天秤の底に細い針金をつけて皿を吊るし、 炭酸カルシウムを水に懸濁させた液を皿から高さ h まで注ぎ込み、皿の上に溜まる炭酸カルシウムの重さの時間変化を調べる。 炭酸カルシウム粒子がすべて球形であるとし、それぞれの粒子は独立に沈降していくものとする。 Stokesの法則に従って粒子が摩擦力を受け速やかに終端速度に達するものとすれば、直径 \(a\) の粒子の沈降速度 \(v(a)\) は次式で与えられる:

\[ v(a) = \frac{\Delta\rho g}{18 \eta} a^2 = k a^2 ~~~ \mbox{(a)} \]

ここで \(\Delta\rho\) は炭酸カルシウムと水の密度差、\(g\) は重力加速度、\(\eta\) は水の粘度であり、\(k = \Delta\rho g/18 \eta\) とした。 最初炭酸カルシウム粒子が均一に分散しているなら、炭酸カルシウムの沈降による天秤の示す重さ \(w(t)\) の増加速度は次式で与えられる:

\[ \frac{\rmd w(t)}{\rmd t} = \frac{w_0}{h} \int_0^{a(t)} {v(a) f(a) \rmd a} ~~~ \mbox{(b)} \]

ここで \(w_0\) は最終的な増量 \(w(\infty)\)、\(f(a)\) は粒径 \(a\) の粒子の質量分布関数である。 また \(a(t)\) は時刻tで沈降が終了する粒子の直径で \(v(a(t)) t = h\) の関係から定まる。したがって

\[ \frac{\rmd^2 w(t)}{\rmd t^2} = \frac{w_0}{h} \frac{\rmd a(t)}{\rmd t} v(a(t)) f(a(t)) ~~~ \mbox{(c)} \]

天秤の示す重さの変化が図のように得られたとすると、時刻 \(t\) における接線の切片の値 \(b(t)\) の時間変化は次式で与えられる:

\[ \frac{\rmd b(t)}{\rmd t} = -\frac{t}{w_0} \frac{\rmd^2 w(t)}{\rmd t^2} = \frac{\rmd a(t)}{\rmd t} f(a(t)) ~~~ \mbox{(d)} \]

したがって次式のように時刻 \(t_1\)、\(t_2\) における切片の値から、粒径 \(a(t_1)\) と \(a(t_2)\) の間の粒子の割合が評価できることになる:

\[ b(t_2) - b(t_1) = -\int_{t_1}^{t_2} {\frac{\rmd a(t)}{\rmd t} f(a(t)) \rmd t} = \int_{a(t_2)}^{a(t_1)} {f(a) \rmd a} ~~~ \mbox{(e)} \]


12-1.(d)式が成立することを、無能の昭和老人 Y にもわかるように説明せよ。

12-2.沈降深さ \(h\) を30 cmとして実験を行い、図2の結果を得た。\(w(t)/w_0\) の切片の値 \(b(t)\) は、\(b(\rm{20 min) = 0.42}\)、\(b(\rm{40 min) = 0.69}\) であったという。 粒子の質量の累積分布 がちょうど 0.5 となる粒径 \(a_{50}\) はいくらか推定せよ。 またこの炭酸カルシウムがすべて粒径 \(a_{50}\) の粒子からなっているとすると、 1 gの炭酸カルシウムには何個の粒子が入っていることになるか? 炭酸カルシウムの密度を 2.7 g cm-3、水の密度を1.0 g cm-3、 水の粘度を1.0 mPa s、重力加速度を9.8 m s-2とする。


12-1.

\[ w(t) = w_0 b(t) + t \frac{\rmd w(t)}{\rmd t} \]

より

\[ w_0 \frac{\rmd b(t)}{\rmd t} = \frac{\rmd w(t)}{\rmd t} - \left( \frac{\rmd w(t)}{\rmd t} + t \frac{\rmd^2 w(t)}{\rmd t^2} \right) = t \frac{\rmd^2 w(t)}{\rmd t^2} \]

(b) 式と \(h = v(a(t)) t\) に注意して

\[ \frac{\rmd b(t)}{\rmd t} = -\frac{t}{w_0} \frac{\rmd^2 w(t)}{\rmd t^2} = -\frac{t}{h} \frac{\rmd a(t)}{\rmd t} v(a(t)) f(a(t)) = -\frac{t v(a(t))}{h} \frac{\rmd a(t)}{\rmd t} f(a(t)) = -\frac{\rmd a(t)}{\rmd t} f(a(t)) \]

12-2.

\[ k = \frac{\Delta\rho g}{18 \eta} = \rm{ \frac{(2700~-~1000) \times 9.8}{18 \times 1.0 \times 10^{-3}} ~m^{-1}~s^{-1} = 9.26 \times 10^5 ~m^{-1}~s^{-1} } \]

\(k a^2 t = h\) だから、\(a(t)\) は \(t\) の関数として

\[ a(t) = \sqrt \frac{h}{kt} = 5.69 \times 10^{-4}~ t^{-1/2} ~ \rm{s^{1/2} ~m} \]

a(20 min) = 16.4 μm、a(40 min) = 11.6 μm であり、 累積分布F(16.4 μm) =1 - 0.42 = 0.58、F(11.6 μm) = 1 - 0.69 = 0.31ということになる。 累積分布 0.5 近傍では粒径に比例して累積分布が増加していくと期待して、

\[ a_{50} / \rm{\mu m} = \frac{(0.58~-~0.50) \times 11.6~ +~(0.50~-~0.31) \times 16.4}{0.58~-~0.31)} = 15.0 \]

このサイズの粒子の重さは

\[ \frac{\pi}{6} a_{50}^3 \rho = \rm{ \frac{\pi}{6} (15 \times 10^{-6})^3 \times 2700~ kg = 4.8 \times 10^{-12}~ kg = 4.8~ ng } \]

1 g 中に含まれる粒子数としては

(1 g)/(4.8 × 10-9 g) = 2.1 × 108


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