last revised 2021.5 / 2020.3
吉村洋介
入門化学実験

1A. 液体窒素・液化ガス

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液体窒素温度(77 K)~ドライアイス温度(~200 K)程度の低温の世界に親しむとともに、熱電現象および熱電対を用いた温度測定の基礎を体得する。

1A-1. 熱電対を用いた温度測定

<器具・材料>
<操作>
  1. ペルチエ素子に電流を通じて、表が冷たくなり、裏が温かくなることを確認する。
  2. T熱電対の2本の素線をねじ合わせて熱接点Xを作り、マルチメータU1251Aのプローブにつなぐ(Cuが+極になる)。 熱接点を氷水およびペルチエ素子の表面に接触させて電圧Vを測定し、素子の表面温度を推定せよ。
  3. どのように T 熱電対を用いるか考え、ペルチエ素子の表と裏の温度差を測ってみよ。
  4. K熱電対線の一端の2本の素線をペンチでねじ合わせて熱接点を作る。マルチメータU1251Aを温度測定モードにして、 炎の温度を測ってみよ。以下の実験ではこのK熱電対を用いU1251Aの温度測定モードで温度を測ればよい。

1A-2. ドライアイス・液体アンモニア

<器具・材料>
<操作>
  1. メタノール約50 mLを断熱容器に入れ、ここに吹きこぼれないように注意しながらドライアイスを加え低温浴を作り熱電対で温度を測る(-70℃程度になっているはず)。
  2. アンモニア発生装置のポリエチレン管に、シリコンチューブ(あるいはビニル管。ビニル管を用いる時は低温浴中で硬化(ガラス化)するので折れないように注意する)をつなぎ、低温浴をくぐらせる、局所排気装置の近くに置く。
  3. アンモニア発生装置に塩化アンモニウム1.0 gと水酸化ナトリウム1.0 gを入れた後、水1 mLを加えたら、ただちに発生装置の蓋をして、発生してくるアンモニアをシリコンチューブに通じて液化させる。
  4. ビニル管に溜まった液体アンモニアに金属ナトリウム片を入れて変化を観察する。

1A-3. 液体窒素・液体酸素

<操作>
  1. 容器に液体窒素を取り、K熱電対で温度を測る。
  2. 液体窒素に試験管を浸し液体空気を作った後、試験管を液体窒素から出し、ゆっくり沸騰・蒸発させる。
  3. 試験管を取り出し、内部が酸素に富んだ空気になっていることを確認する。
  4. 酸素富化空気をポリエチレン袋に詰め、液体窒素に浸して液体酸素を作り様子を観察する。

1Ae. 「液体窒素・液化ガス」の背景

1Ae-1. 熱電対による温度測定

図1A1. 熱電対による温度測定の模式図

抵抗線の両端に温度差があると、温度差に応じた電位差が現れる(熱起電力)。 今回の実験では、異なる材質からなる金属線の対(熱電対)(T ではCu(銅)とCS(コンスタンタン)、 K ではC(クロメル)とA(アルメル))を用いて図1A1のような回路を構成して、 温度 TX と TY における熱起電力の差を測定していることになる。 なおマルチメータは自身の温度 TZ と回路の電圧Vを測定し、 プローブと抵抗線との接合部の温度 TYがほぼ TZ に等しいものとして、 K 熱電対で測定した電圧から熱電対の接合部(熱接点)の温度 TX を算出して表示する。

T 熱電対とK 熱電対の室温付近での熱起電力 V の挙動は似ていて、 -30~70 °Cの範囲であれば、大まかに温度差 Δt に比例するとみてよく

V / mV = 0.040 (Δt / °C)

の関係が成立する(誤差は5%以内程度)。

図1A2. K 熱電対と T 熱電対の熱起電力(TY = 0 °C)

1Ae-2. 二酸化炭素とアンモニアの相挙動と液体アンモニア

二酸化炭素の三重点(-56.6 °C、0.52 MPa)の圧力は高く、常圧で液体は安定に存在できない。 通常ドライアイスの温度とされるものは二酸化炭素の1 気圧での昇華点(-78.5 °C)に相当する。 ドライアイスにメタノールを混ぜると熱伝導がよくなり、ドライアイスのメタノールへの溶解・気化による周辺温度の低下が促進され効率的な冷却が可能となる。

アンモニア(三重点 -77.8 °C、6.1 kPa)の1気圧における沸点は-33.3 °Cであり、 ドライアイス-メタノールで液化できる。 溶媒としての液体アンモニアの特異な性質として、アルカリ金属、アルカリ土類金属を溶解することが挙げられる(ただしBe、Mgはほとんど溶けない)。 金属ナトリウムは -40 °Cで約20 mass%まで液体アンモニアに溶け、溶媒和電子を生じることが知られている。

1Ae-3. 液体空気・酸素

窒素、酸素の標準沸点はそれぞれ -195.8 °Cと -183.0 °Cである(融点は -210.0 °Cと -218.8 °C)。 液体空気(沸点は -194 °C。露点は -192 °C)を蒸発させると最初窒素に富んだ組成の空気が蒸発し、酸素に富んだ組成の空気が残る。 酸素濃度が高くなると、酸素は常磁性を示すので磁石に強く引き寄せられるようになり、また青い色を示すようになる。 なお真空ポンプで急速に減圧することで蒸発熱が奪われ、容易に固体窒素をえることができる。


「液体窒素・液化ガス」のこと

この課題では、ドライアイス温度から液体窒素温度ぐらい、 -30 °C ~ -200 °Cぐらいの、 家庭用冷蔵庫では実現できない低温の世界を扱います。 当初は、熱電対による温度測定の原理に触れ、 ドライアイス-メタノールの挙動の検討(メタノールにドライアイスはどれだけ溶けるか)、 液体空気の製造ぐらいを課題に指定して、 「後は(危なくない程度に)お好きにどうぞ」 というスタンスでした。 それがだんだんに膨らんで、 液体酸素、液体アンモニアへの金属ナトリウムの溶解、 ペルチエ素子といった要素を取り込んで、 いささか欲張った内容になっています。

できるだけコンパクトな構成で、 それぞれどのように実験してもらうかについては、 結構苦労しました。 例によって話が長くなるので、 実験の少し詳しい話は下記サイトを参照ください。

「液体窒素・液化ガス」の課題のこと

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