イオウの同素体を作り、またイオウと銅・鉄の反応で金属硫化物を合成する。
イオウには種々の同素体が知られている。ここではその中の典型である直方(斜方)イオウ(α)、 単斜イオウ(β)、ゴム状イオウを主に取り上げる。直方イオウは室温で安定な結晶であるが96 °C以上では単斜イオウが安定になる。 今回の実験では、針状の単斜イオウをイオウのキシレン溶液(m-キシレンの沸点は139 °C)を冷却することで析出させることにしているが、 急冷することで同じく単斜晶系ではあるが異なる結晶が得られることが知られている(γ。真珠母イオウ nacreous sulfur)。 直方イオウなどの中でイオウは環状分子S8の形で存在している。平衡状態で温度を上げていくと、 イオウは96 °Cで単斜イオウにそして115 °Cで融解して液体になる。
液体のイオウを加熱するとだんだん赤みがかかり160 °C付近から急速に粘性が高くなり190 °C付近で極大を示し再び流動性を示し445 °Cで沸騰する。 この粘性の振る舞いはS8分子が解離して高分子化するためであると考えられ、これを急冷するとゴム状(無定形)イオウが得られる。 イオウのアルカリ溶液(liver of sulfur“硫黄の肝”)には、同様に多数のイオウ原子からなる多硫化物イオンが存在し、酸性にすると非晶質のコロイド状イオウが生成する。
結晶中では原子は3次元的に周期配列しており、その最小の繰り返し単位として3辺がa, b, cで与えられる平行六面体(単位格子)を考える。 ベクトルa, b, cの長さ、なす角度を格子定数と呼び、次のような結晶系crystal systemに分類される。
結晶系 | 格子定数の間の関係 | 不可欠な対称要素* |
立方晶系 Cubic | a = b = c, α = β = γ = 90° | 4本の3回回転(反)軸 |
正方晶系 Tetragonal | a = b ≠ c, α = β = γ = 90° | 4回回転(反)軸 |
直方晶系 Orthorhombic** | a ≠ b ≠ c, α = β = γ = 90° | 直交する3本の2回回転(反)軸 |
六方晶系 Hexagonal | a = b ≠ c, α = β = 90°, γ = 120° | 6回回転(反)軸 |
三方晶系 Trigonal*** | a = b ≠ c, α = β = 90°, γ = 120° | 3回回転(反)軸 |
単斜晶系 Monoclinic | a ≠ b ≠ c, α = γ = 90° ≠ β | 2回回転(反)軸 |
三斜晶系 Triclinic | a ≠ b ≠ c, α ≠ β ≠ γ |
実際にわれわれが目にする結晶は、基本単位である単位格子を反映したものになってはいるが、 単位格子から作られる構造が、実際の結晶の姿かたちにどのような形で現れるかは単純ではない。 たとえば直方晶系の結晶は菱形になることが多い(このため「斜方晶系」と呼ばれた)。こうした性質は晶癖habitと呼ばれ、さまざまな形で現れる。
教養の化学実験で、 無機の金属イオンの系統分析の中で、 一通りアルカリ土類金属や遷移元素などと親しむわけですが、 意外に典型元素についての課題が欠けている印象があります。 そこで2回生向けの実験では、典型元素についての課題を組み込もうというので、 中でも多様な表情を見せるイオウとリンを取り上げることにしました。 けれど1回分の枠しか充てられない関係で、 1年交代でイオウとリンを扱うというかなり変則的な組み方を取っています。
ここではイオウについての実験を取り上げていますが、 実験を企画・制作して、 よく知られたように見えることでも、 とんでもなく奥行きがあることを教えられました。 その一端については、下記サイトを見てみてください。