last revised 2021.6 / 2020.3
吉村洋介
入門化学実験

1B. イオウの化学

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イオウの同素体を作り、またイオウと銅・鉄の反応で金属硫化物を合成する。

1B-1. イオウの同素体

<試薬> <操作>
  1. 試験管にイオウ0.1 gを取り、キシレン1 mLを入れ、ヒートガンで加熱し、イオウをキシレンに溶かした後、試験立てに立てて放冷し、結晶の析出をマイクロスコープで観察する。
  2. 針状の結晶の析出が少し収まったら、まだ温かい溶液部分を別の試験管に取って再び結晶の析出を同様に観察する。
  3. 長さ8 cm程度のガラス管の一端を封じ、イオウ0.3 g程度を入れる。
  4. ヒートガンで加熱し、イオウが融解して黄色の液体になったら放冷して固化させて様子を観察する。
  5. ヒートガン(バーナーでもよい)で強熱し、イオウが黒褐色の粘い液体になるまで加熱を続けた後、放冷して液体が流動性を取り戻し、さらに結晶化する様子を観察する。
  6. バーナーで黒褐色の粘い液体が流動性を示すようになるまで加熱した後、水に浸けて急冷し、ガラス管を砕いて内容物を取り出して観察する(ゴム状イオウ)。
  7. 試験管に水酸化ナトリウム0.7 gを取り、水3 mLを加えて溶かし、イオウ粉末0.5 gを加え、穏やかに沸騰させた湯浴中で振り混ぜながら加熱溶解させる(5~10分必要)。
  8. 試験管に2 %リンゴ酸溶液10 mLを取り、調製したイオウの赤褐色の溶液を数滴加え、生成した懸濁液をろ過してみる(コロイド状イオウ)。

1B-2. 硫化物の合成と性質

<試薬> <操作>
  1. 試験管に鉄粉0.35 gとイオウ0.20 gを取り、よく混合する。
  2. バーナーで加熱、反応させる。
  3. 十分冷えたら、1 N塩酸を3 mL加え、発生する気体(硫化水素)を酢酸鉛試験紙で確認する。
  4. 試験管に銅粉0.40 gとイオウ0.20 gを取りよく混合し、バーナーで加熱、反応させる。
  5. 十分冷えたら内容物を取り出し、テスターで電気抵抗を調べる。次の課題で磁化率を調べるので、捨てずにとっておく(0.1 gもあれば十分)。

1Be. 「イオウの化学」の背景

1Be-1. イオウの同素体

イオウには種々の同素体が知られている。ここではその中の典型である直方(斜方)イオウ(α)、 単斜イオウ(β)、ゴム状イオウを主に取り上げる。直方イオウは室温で安定な結晶であるが96 °C以上では単斜イオウが安定になる。 今回の実験では、針状の単斜イオウをイオウのキシレン溶液(m-キシレンの沸点は139 °C)を冷却することで析出させることにしているが、 急冷することで同じく単斜晶系ではあるが異なる結晶が得られることが知られている(γ。真珠母イオウ nacreous sulfur)。 直方イオウなどの中でイオウは環状分子S8の形で存在している。平衡状態で温度を上げていくと、 イオウは96 °Cで単斜イオウにそして115 °Cで融解して液体になる。

液体のイオウを加熱するとだんだん赤みがかかり160 °C付近から急速に粘性が高くなり190 °C付近で極大を示し再び流動性を示し445 °Cで沸騰する。 この粘性の振る舞いはS8分子が解離して高分子化するためであると考えられ、これを急冷するとゴム状(無定形)イオウが得られる。 イオウのアルカリ溶液(liver of sulfur“硫黄の肝”)には、同様に多数のイオウ原子からなる多硫化物イオンが存在し、酸性にすると非晶質のコロイド状イオウが生成する。

1Be-2. 結晶系のこと

結晶中では原子は3次元的に周期配列しており、その最小の繰り返し単位として3辺がa, b, cで与えられる平行六面体(単位格子)を考える。 ベクトルa, b, cの長さ、なす角度を格子定数と呼び、次のような結晶系crystal systemに分類される。

結晶系格子定数の間の関係不可欠な対称要素*
立方晶系 Cubica = b = c, α = β = γ = 90°4本の3回回転(反)軸
正方晶系 Tetragonala = b ≠ c, α = β = γ = 90°4回回転(反)軸
直方晶系 Orthorhombic** a ≠ b ≠ c, α = β = γ = 90°直交する3本の2回回転(反)軸
六方晶系 Hexagonal a = b ≠ c, α = β = 90°, γ = 120°6回回転(反)軸
三方晶系 Trigonal***a = b ≠ c, α = β = 90°, γ = 120°3回回転(反)軸
単斜晶系 Monoclinica ≠ b ≠ c, α = γ = 90° ≠ β2回回転(反)軸
三斜晶系 Triclinica ≠ b ≠ c, α ≠ β ≠ γ

実際にわれわれが目にする結晶は、基本単位である単位格子を反映したものになってはいるが、 単位格子から作られる構造が、実際の結晶の姿かたちにどのような形で現れるかは単純ではない。 たとえば直方晶系の結晶は菱形になることが多い(このため「斜方晶系」と呼ばれた)。こうした性質は晶癖habitと呼ばれ、さまざまな形で現れる。


「イオウの化学」のこと

教養の化学実験で、 無機の金属イオンの系統分析の中で、 一通りアルカリ土類金属や遷移元素などと親しむわけですが、 意外に典型元素についての課題が欠けている印象があります。 そこで2回生向けの実験では、典型元素についての課題を組み込もうというので、 中でも多様な表情を見せるイオウとリンを取り上げることにしました。 けれど1回分の枠しか充てられない関係で、 1年交代でイオウとリンを扱うというかなり変則的な組み方を取っています。

ここではイオウについての実験を取り上げていますが、 実験を企画・制作して、 よく知られたように見えることでも、 とんでもなく奥行きがあることを教えられました。 その一端については、下記サイトを見てみてください。

「イオウの化学」の課題のこと

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