last revised 2021.10 / 2020.3
吉村洋介
入門化学実験

2A. カフェインの抽出・精製

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茶葉からカフェインを抽出分離・昇華精製し、赤外スペクトルを用いて同定する。

2A-1. 茶葉からのカフェインの抽出

<材料・試薬> <操作>
  1. ビーカーに水20 mLを入れ加熱沸騰させ、ティーバッグを入れ茶を煮出す。
  2. 得られた煮出し液を試験管に取って冷やし、沈殿物を炭酸ナトリウムを少量加えて溶解させる。
  3. 遠心管2本に(2)の煮出し液をほぼ等量分けて取り、各々にジクロロメタンを1 mLずつ加え激しく振ったのち、遠心分離器にかけ、下層のジクロロメタン層をスポイトで分取する。
  4. 残った遠心管の水層に再びジクロロメタン1 mLずつ加え、(3)と同様に抽出操作を行う。
  5. 抽出液に硫酸ナトリウムを加えて乾燥させる。
  6. 乾燥した抽出液を直径16.5 mmのサンプル管に取り、局所排気装置の下で、 アルミブロックの穴に差し込んでホットプレート上で温めながら(天板温度を50 °C程度に設定)エアポンプで空気を通じジクロロメタンを揮発させ、粗カフェインを得る。

2A-2. 同定・昇華精製

<試薬> <操作>
  1. 直径6 mm程度のガラス管の一端を封じて管内に水を入れ、粗製カフェインを入れたサンプル管中に脱脂綿などを利用して固定する。
  2. ホットプレートの天板温度を200~220 °C 程度に設定して加熱する。
  3. カフェインの昇華・析出がおさまったら加熱をやめ、析出したカフェインを観察する。
  4. 赤外スペクトルを取ってカフェインかどうかを確認する(標準サンプルがあるのでスペクトルを比較する)。
  5. 時間に余裕があれば、時計皿にカフェインを取り、ここに10 %過酸化水素水数滴、 6 N塩酸1滴を垂らしてホットプレート上で加熱乾固させ(天板温度は120 °C程度)、 アンモニア水を入れた瓶の上にかざして色が変わるかどうか調べる(ムレキシド反応)。

2Ae.「カフェインの抽出・精製」の背景

2Ae-1.カフェインのこと

アルカロイドの一種。チョコレートに含まれるテオブロミンはカフェインの類縁化合物。 MW 194.19、m. p. 227-228 °C (無水)。180 °Cぐらいから昇華が著しくなる。 熱水によく溶け(~50 %)、室温付近でも水に 2 %ぐらいまで溶ける。

酸性で過酸化水素と反応させ乾固すると橙色になり、アンモニアを作用させると赤くなる(ムレキシド反応)。 温度を上げ過ぎると分解が進んで、呈色がはっきり見られなくなる。


2Ae-2.赤外スペクトルのこと

赤外線IRスペクトルはおよそ波長 λ が2 µm ~ 20 µm の領域の電磁波 (波数(= 1/λ)500 cm-1 ~ 5000 cm-1程度)の吸収スペクトル。。 主に分子の振動状態を反映したスペクトルが得られる。分極の大きな結合の振動ほど(O-HやC-O)強い吸収を示す。 有機化学では官能基の存在の検出、物質の同定などに用いられる。

有機化合物の赤外吸収スペクトルの測定には、以前はもっぱら透過法が用いられたが、 近年では反射法(ATR法。減衰全反射法)が主流となっており、今回使用するFT-IR装置Cary 630でもATR法を用いる。 ATR法では透過法に比して、低波数側の吸収が強調され、強く鋭い吸収については一般に低波数側にピークが出るので、 透過法で得られた結果との比較には注意が必要である。

図2A1. 純度の高いカフェインの赤外吸収スペクトル(Cary 630 ATR法)

「カフェインの抽出・精製」のこと

カフェインの抽出・精製の実験は、 よく大学初年級の化学実験で取り上げられています。 教科書で習った抽出や昇華操作で、 ふだん飲んでいるお茶から、 「化学物質」のカフェインの結晶が得られるのは、 ちょっと感動です。 入門化学実験でも、出発の時点から、課題の中に盛り込んでいました。

カフェインの抽出溶剤には、 安全性を考えると酢酸エチルを使う方が望ましいかもしれません。 けれども分配係数が小さくて回収率が低く、 沸点が高いので、 ジクロロメタンを採用しています (最初は3回生実験の余り物のクロロホルムを使いました)。 なおジクロロメタンは排水基準が厳しく設定されているので(クロムやニッケルより1ケタ厳しい 0.2 ppm)、 廃液の扱いには注意です。

実験の様子や、ちょっと詳しい話は下記サイトを見てください:

☆「カフェインの抽出・精製」の課題のこと

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