2021.2
吉村洋介
入門化学実験

入門化学実験のレポートのこと

実験レポートの作成と提出

実験課題をやったらレポートを作成、提出する。 これを当然のように課しているのですが、 はたして「化学クラブ」的運営にかなうのかどうか、疑念のあるところではあります。 けれどもシメの部分をしっかりしておかないと、 安易な方向に流れた時に止めようがないでしょう。 そこで実施するすべての実験課題についてレポート提出を求めるスタンスを取りつつも、 レポートはA4版で、原則、図表を除いて2ページ以内ということにしています (2013年度から。当初は1ページ以内としていたのですが、 1ページに収めるのがかえって負担になるようなので増やしました)。 さらに2016年度からは、 実験課題の中で、自分がまとめたいと思うテーマに絞ってレポートを作成する(たとえばピクレートの課題であれば、HPLC に絞ってまとめる) のも可ということにしています (絞り過ぎてあまりにしょぼいのは減点)。

ワープロを使うべきかは判断の分かれるところです。 当初は各自の好みに任せるというスタンスで、 ともあれ最終、紙で提出ということにしていました。 開始時点 2009年度は MS WORD などで作成して印刷するというのが半分くらいだったのですが、 着実に手書き派は減り、2015年度後期からは紙にこだわらず、 「電子提出」を受け付けるようにしました。 当初は数もそう多くないので、添付ファイルで提出してもらう形でした。 しかし「電子提出」数が増え、2017年度の後期から PandA を利用する形に転換しました (この時3回生実験も PandA の利用開始)。 紙での提出の受付も継続していますが、 20人ぐらいの中で手書きで提出するのは1人か2人、 2019年度にはほぼ0となりました。

実験レポートのスタイル

学生実験のレポートをどのように書くべきは難しい問題です。 先生によると「将来学術論文を書くためのトレーニング」と捉えて、 かなり本格的なレポートを求める向きもあるでしょう。 あるいは実験操作などについて実験テキストの「写経」をし、 そこに「結果」の、変色の有無や数字などを加えるといった、 試験の答案のようなものを期待する向きもあるかもしれません。 でもそういったものは入門化学実験の主旨から、 いささか外れているように思っています。

例年、ぼくは「模範レポート」を用意し、レポートを書く心がけとして、 最初に、以下のようなプリントを配って説明しています。 入門化学実験の趣旨を踏まえ、「書きやすく、読みやすいレポート」を目指そうというわけです。 聞いただけでは分かってもらえないことが多いようですが、 実際にレポートを書く中で、そのココロが少しは伝わっているように感じます。 またMS Wordのテンプレートを用意して、 WORD の基本的な使い方も、提出レポートの講評の中で、 少し時間を取って説明することにしています。 なお3回生の実験のレポートの書き方も、 参考にしていただけると幸いです。

入門化学実験:レポートのこと 2019.4.19.

入門化学実験のレポート

吉村洋介

0.レポートに求めるもの ~ 「答え」の風景とその先にあるもの

入門化学実験で皆さんに求めるのは、マニュアルどおりに操作して現象を再現する、あるいはものを作る、といったことだけではありません。 その中で見える化学の風景、そしてその先にあるものに目を向けてもらえることを期待しています。 テキストにあからさまに「観察する」といった指示がなくても、観察し考えてほしいのです。 何でもないような反応や操作にも、少し目を凝らしてみるといろんな現象が起き、いろんな問題が潜んでいます。 たとえばコバルト錯体の合成では、青やピンク、いろんな色が現れます。今すぐにはそれが何かわからなくても、記録にとどめておきましょう。 あるいは自分で考えて、(大きな危険のない限り)テキストの指定のやり方から変えてみて、 何か違う現象を捕まえてレポートに反映するなどは、当方が大いに期待するところです。

1.実験レポートの形式

すでに基礎化学実験等でも出会ったことと思いますが、皆さんに推奨するレポートの形式は、 大まかに言って「はじめに」「方法」「結果・考察」という構成です。 詳細はPandA(Kyoto University CyberLearningSpace for People and Academics)にアップしてある MS Wordのテンプレートファイルを参照してもらえればよいでしょう。 要は、(内容はともかく)書きやすく読みやすいレポートを追及してもらえればよいのです。

1-1.「はじめに」

「はじめに」はレポート全体を概観する部分だと思っていいでしょう。 実験の目的や概要をコンパクトにまとめて書いてもらえればいいのです。 入門化学実験では、ある程度実験の内容について読み手も理解しているわけですから、 課題の再確認といった位置づけと思ってもらえばよいでしょう。

「はじめに」(「導入」introduction)ではなく、端的に「目的」なるもの(「硫酸銅の合成」「カフェインの抽出」など) を最初にあっさり書いてすましてしまうのはあまり感心しません。 実験の概要(さらにはレポートの構成)についてまず書いて、読み手に心の準備をしてもらうつもりになりましょう。 場合によっては「原理」や「方法」について、この「はじめに」で記述してもいいでしょう。

1-2.「方法」そして「操作」「結果」

「方法」はすでに実験テキストに示されているので、できるだけそのエッセンスを書き出して、 その詳細は「結果」の中で浮かび上がってくるという書き方がよいでしょう。 また「方法と結果」といった形で章を立てるのはお薦めしません。 今後皆さんが何かを理解しようとする時、あるいは実験を自らの手で設計しようとする時、 「自分の方法論」が重要になってきます。 こうしたレポートをまとめる中で、そうしたものを少しでも意識していただきたいと願っています。

けれども初心のうちは、ポイントを押さえて「方法」を書くのは難しいものです。 というのは何をやったのか(やらされたのか)を、ある程度は理解していないといけないからです。 そのため「方法」ではなく「方法」を実際に行う処方箋、「操作」を書き連ねることになりがちです。 そういう困難を感じた時は、いっそ「方法」という節は立てずに、「はじめに」の中で実験の概要の形で記述していただいた方がいいでしょう。

なお「方法」ではなく「操作」という節を立てるのを推奨する向きもあります。 これはレポートに、廃液中の銅イオン濃度の値といった、いわば「明白な結果」を求める場合にはいいかもしれません。 しかし入門化学実験では、その銅イオン濃度決定の過程で見える“化学の風景”(たとえば途中の色の変化や沈殿の生成等)にも注目し、 それも「結果」であるわけですから適切とは言いかねます。 「操作」を別個に記述すると、それぞれの「操作」に対応した「結果」について離れたところで記述することになり、 「操作」と「結果」の対応を読み取ることが難しくなります。 またしばしば「操作」が「方法」(想定される操作)なのか「結果」(実際にやった操作)なのか不分明なこともよくあります。 これは書いていても読んでいても面倒です。 「操作」を「結果」と敢えて分ける必要はなく、「結果」の中で実際にやったこと、見出したことを記述してもらった方がよいのです。 その方が書きやすく、また読みやすいものになると思います。

1-3.「結果」と「考察」

「結果」と「考察」をどのように書き分けるかは難しい問題です。 例えば容量分析で滴定値から未知試料の濃度を決めるといった場合、実験で直接得られた「結果」に「考察」を加えて得た「結果」を語ることになります。 この「考察」があまりに単純なものであれば、わざわざ項を新たに立てて書く必要もありません。 ですから場合によっては「結果と考察」という形で章立てすることも有効です。 この「あまりに単純」と判断するのは各人の主観・力量によるところですが、読み手のレベルもよく考えて記述するようにしましょう。

1-4.「感想」

感動したこと(あまりにも鮮やかな青色!危うく火災!etc)やお家の事情(寝不足で試薬の取り違えを頻発した。部活で予習ができなかった。etc)を書きたくなるかもしれません。 そうしたことは本文とは切り離し、「感想」の中で語りましょう。 課題等についての不平不満も書いておいてもらえると、当方にも大いに参考になるので歓迎です。

2.まとめる課題内容 ~ テーマを各自の判断で絞っても構わない

2時間程度の実験とはいえ、かなり多彩な内容が盛り込まれた課題もあります。 当方としては、やった内容全体をレポートに盛り込んでいただきたいのですが、かなり負担が重いという意見もあるようです。 そこで取り合えず、そうした課題については、各自の判断で実験レポートにまとめる内容を絞りこむことも可とします。 たとえば「再生繊維・染色」の課題であれば、「染色」の部分に的を絞って記述してもらっても構いません。 ただしその旨、「はじめに」の部分できちんと書いておいてくださいね。

3.実験レポートの提出

特に指示がなければレポートの提出締め切りは、実験のあった次の週の金曜です。

レポートはPandAの【課題】から、WORDかPDFのファイルで提出してください。

手書きも可です。紙で提出する人はその旨 PandA の課題に書いて送信し、369号室の前のレポート入れに入れてください。


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