茨城県東海村の核燃料工場での臨界事故から2月余りが立ちました。いちょうでは先に、化学の藤村さんに解説を書いていただきましたが、今回はその後判明した事実や、こうした事故の一方で強行に推進されようとしているプルサーマル計画について、前支部長、物理の山田耕作さんに一文を草していただきました。
9月30日に日本の原子力史上最悪の東海村JCO核燃料工場臨界事故が起きました。この事故は全ての人が原子力の利用について真剣に考える必要があることを示したと思います。そこで簡単に問題点を整理し、緊急の行動への協力をお願いしたいと思います。
核燃料の製造に当たっていた3名の労働者はそれぞれ17、10、3 Sv(シーベルト)という高線量の被曝をしました。このシーベルトというのは、生物が放射線から受ける効果の物差しです。17 Svは広島原爆の爆心から1 km位の被曝に相当します。
被曝したのは、作業していた人だけではありません。JCO職員数十名が「決死隊」として臨界を止めるための水抜きなどの作業で高線量の放射線を受けました。緊急作業の被曝限度100 mSv(ミリシーベルト。シーベルトの千分の1)を超える被曝をした人もあります。消防隊員3名、JCOに隣接する建設資材の会社で働いていた7名については数十mSvの被曝を受けました。さらに事故現場から350m圏内の子供や住民は、公衆の年間許容線量である1 mSv以上を避難要請までの数時間で受けました。350m圏外の住民も退避した自宅で被曝し続けました。
ウラン価格の低下と電力・原子力業界からの値引き要求・発注減で、JCOは経営危機に陥り、リストラを押し進め、1984年に180人いた従業員は、約110人に減らされていました。ハイテクに関わる施設とは思えない、沈殿槽へのバケツを使ったウラン溶液投入もコスト削減・効率重視のためだったのです。
行われていたウラン処理の工程は、大まかに言って以下のようなものだったようです:
原料のウラン ―<硝酸で溶解、TBP抽出>→ 粗硝酸ウラニルUO2(NO3)2溶液
―<アンモニア添加>→ 二ウラン酸アンモニウム((NH4)2U2O7沈殿) ―<仮焼後硝酸で溶解>→ 硝酸ウラニル溶液
―<アンモニア添加>→ 二ウラン酸アンモニウム(沈殿) ―<仮焼後硝酸で溶解>→ 精製硝酸ウラニル溶液
この中の沈殿の再溶解の工程を、JCOでは建設費を削減するため、最初に使用する溶解・抽出・貯蔵の容器を用いて行うこととしました。しかし実際には、使用する際に洗浄などしなければならずやっかいなので、バケツでウランを溶かして、沈殿槽に放り込むという「裏技」「裏マニュアル」を使ったのです。また、国はこうしたことが起きる危険が明らかな、JCOの申請書を追認していたのです。科学技術庁はJCOの違反を十数年見逃していたといってもよいでしょう。
JCOの臨界事故は現在の原子力の危険な実態を白日の下にさらしました。こうした状況は、核燃料製造工程に止まりません。原発本体でも定期検査の期間を短縮したり、長期連続運転記録を更新したり、はては放射能漏れがあっても原発を止めないなどの強行運転が強められてきました。
プルトニウムをウランと混ぜた混合酸化物(MOX)燃料にして普通の軽水炉原発で燃やすことをプルサーマルといっています(いちょうNo. 97-21、98.1.22の解説 を参照ください)。「もんじゅ」の事故で使われなくなって「余ってきた」プルトニウムを消費するために、経済性と危険性を犠牲にして行われるのがプルサーマルです。関西電力は高浜4号炉にMOX燃料を年末に装荷し来年早々にもプルサーマルを実施しようとしています。
プルトニウムはウランに比べて中性子によって核分裂反応をおこしやすく、ウランと混合することで反応の制御が困難になります。さらにMOX燃料は融点が低く、局所的な燃料棒の溶融が起こりやすいのです。にもかかわらず、関西電力は、国際的にも経験のない高いプルトニウム含有量のMOX燃料を長期にわたって燃焼させようとしています。燃焼度が高くなると燃料棒の劣化が進み、溶融事故や暴走事故の危険が一層高まります。さらにプルサーマルは高価につくもので、経済性が全くなく、そのためいっそう電力会社は強行運転やMOX燃料のコスト削減を追及することになります。
こうした懸念の一端が、端無くも今秋、MOX燃料の製造元の英BNFL社の手抜き検査として問題になりました。高浜3号炉用ペレットの抜き取り検査が、正しく行われずデータの改ざんが行われていたのです。3号炉の燃料は作り直すことになりました。4号炉用は不正がなかったとしてプルサーマルを実施しようとしていますが、抜き取り検査の統計分布が不自然で関西電力も納得の行く説明が出来ていません。市民はこの点も含めたプルサーマルの公開説明会を要求しています。
地元高浜町では「プルサーマルの住民投票を求める」署名が多数の支持を得ました。福井県民の過半数がプルサーマルに反対し、賛成は少数です。12月13日にも若狭ネット(若狭の原発に反対する福井とその近県の市民団体の集まりです)と関西電力の話し合いが予定されており、関西電力に宛てた「高浜原発で放射能事故を繰り返すな」の署名を取り組んでいます。この署名は、
を求めるものです。どうか署名に御協力を願いします。