この10~15年の地質学の発展を背景に、「地質学」や「地球化学」を看板にしていたのでは駄目だという気運が高まっていた。例えば、地球の発達史に止まらず、太陽系の歴史(もっと具体的には月の石の研究など)にまで視野を広げた研究の必要が言われていた。
このことが具体化したのは、4、5年前の10大学理学部長会議だった。当時の名古屋大学の理学部長が地質の人だったこともあって、「地球惑星科学」への移行が謳われたのだ。この線に沿って、九州大学では2年前に地球惑星科学教室が、地質学教室と、物理教室の中にあった地球物理とを合併する形で作られた。これに名古屋大学が続き、東大、東工大、東北大と改組が進行しつつある(東大は大学院重点化絡み)。
ここ京大では、いささか事情がちがった。アンケートが回ってきた地点では、地鉱教室の教授会は「すべてが右へならえする必要はない」という、いわば保守的な立場を打出したのだ。しかし、そこに大学院重点化の波が押し寄せてきた。
地鉱での議論では、現在も「大学院が主で、学部が従というのは間違っている」というのが大方の意見である。実態としてはここ数年を除いて、来る学生の数は少ない。それでも、学部段階から鍛えておかないと、一人前の研究者は育ちにくいと考えている。だから、学部重視は崩したくない。東大で院生を倍増したあげくが、大学院の受験者を全員入学させざるを得なくなって、レベルの低下を招いたなどというのも、宜なるかなだ。
しかし大学院重点化の動きが本格化するにつれ、今さらやらないわけには行かないところに追い詰められている。「バスに乗り遅れるな」というところに置かれたわけだ。したがって、初期に作った独自案も大学院重点化で書き換える事になった。特に、この40年間講座増設などなかったことから、この機会を逃すと規模の拡大を図るチャンスはないという思いがあった。実際、昔、物理が7講座だった時代、地鉱は5講座で遜色なかった。それが60年代の講座倍増などの時期に乗り遅れた結果、今のような力関係になってしまったのだ。
具体的には地球物理とくっついて、地球・惑星科学専攻を作り、そこに地質科学教室という形で入る事になる。組織構成としては、3つの基幹講座(中程度の規模の大講座になる予定)を設ける事になる。この大講座制への移行には、ほとんどの人が賛成している。これは助手を減らして、みんなが教育・研究の責任者になるという意味で賛成が多い。
Q:助手は必要ないという考えですか?
A:地鉱のように小さい教室では、助手にも教育面などで貢献してもらわないと、教室が立ち行かないので、助手を助教授並みにして行くという考えだ。
Q:図書などでは統合した方がメリットがあると思うが:
A:事務体制についてはまったく白紙。というのは、文部省は事務体制については関知するところでないからだ。つまり少ないスタッフで、より多くの学生の教育ができればよい。
Q:地球物理との完全合併はどうですか
A:日本では、まずありえない。欧米と違い、日本では明治以来130年にわたって、地球物理と地質と言うのは別の道を歩んできた。たとえば関係省庁も、気象庁は地球物理など、はっきり色分けがある。
1960年代以降、宇宙物理学は急速に発展してきた。特に人工衛星に代表される観測機器の進歩は、宇宙物理学をビッグサイエンスにした。日本でも国立天文台や宇宙研など共同利用研は、それにともなって大きくなった。宇宙関係の物理の講座も、名古屋大学など急速に拡大してきた。しかし京大をはじめ、東北大、東大といった、明治以来の老舗の教室は、規模も大きくならず、細々とやっているのが現状だ。そこでこの機会に改組・拡充を図りたいと考えている。実際、学生・院生には宇宙物理は人気のある分野で、院試などは倍率が3~4倍といった状態がここ十年続いている。
具体的には、3つの大講座と1つの客員講座を考えている。3つのうち1つは天文台関係だ。そしてスタッフは5割増、院生は3倍増ということになる。こうした量的拡大によって、これまでの観測データを処理するに止まっていたレベルから、実際にデータを生み出すことのできるレベルに持っていきたいというのが、われわれの思いだ。
Q:スタッフは本当に増えるのですか?院生だけ増えて、身動き取れなくなるのでは・・・
A:どうなるかはわからない。しかし院生が増えればマンパワーが増えるわけだから、仕事はたくさんこなせるようになるだろう。ただし心配は院生の就職だ。でもまあなんとかなるだろうと思っている。
Q:物理と一緒になるわけですが、教室の運営はどうなるのでしょう。建物も別なわけですが・・・
A:そこは長期的に考えていかないといけないでしょう。当面は今のままだと思うけれど...
以前から学問の現状に鑑みて、3教室がくっつくことを考えていた。実際、院試も3教室ある程度共通にやっているし、講義も3専攻にまたがったものもある。だからカリキュラムの上からはくっついても大して変化はないし、重点化に乗ってもよい。したがって、重点化については熱心でも否定的でもない。
重点化の具体的な内容については植物教室では、内部でつっこんだ議論はなかった。日常の運営についてどうするかは議論していないが、ネガティブな意見もある。たとえば、教室間の教室運営に関する慣習の違い、修論の取扱いの違い、また大所帯になることにともなう問題などだ。
Q:院生数の増加については、どう考えるか。とくに就職関係はどうですか?
A:現在、バイオテクノロジー関係はいくらでも就職があります。
重点化についてはそれほどちゃんと議論されていない。けれども学部長のお膝元ということで、とにかく前向きに進んでいて、主任を中心に実務的なことをやっているのが現況だ。ただし先行きはよくわからない。ともかく現在、修士を定員以上とっているおり、制度的に大きな改革が必要という雰囲気ではないだろうか。
Q:東大でやっている重点化についてはどうですか
A:東大に大量に院生が流入する結果、他大学へ院生が行かなくなる。他大学に矛盾が皺寄せされることになるのは問題だろう。
Q:院生定員は増えますか。またそうした時に院生が集らないということはないでしょうか?
A:少し増える。院生が集らないということはないだろう。
Q:学部定員はどれぐらいですか。
A:60人ぐらいで、30~50人ぐらい来る。
Q:専攻の名前を変えるそうですが、どういう背景があるのですか?
A:他専攻が変えるし、2文字の名前ということもある(笑)。物Ⅰとくっつけなかったので、名前を変える必然性は薄まったわけだが...
Q:物理では化学は院試に落ちる人がいないという噂ですが..
A:院試に落ちる人もいますよ。
当初から私自身、主任としてかなり前向きな発言をしてきた。
現在、地球物理では1講座が1学会に対応している状況で、事情・意見はいろいろだ。しかしともかく、この改革に乗っておかないと、新しい要求を出せない。そこで実害がでないような形で乗ることにした。
案を作るにあたっては、地球物理の特殊性、付属施設が多いことに特に留意した。現に専攻の先生は、専任より併任(兼任)の人が多いぐらいだ。研究所に改革が及ばない形で、研究所などは協力講座の形で組込んだ。ともかく問題は、定員がどれほどつくかということと、地鉱とくっつく際の運営にあるだろうと思う。
今進行している事態についていうと、概算要求のやり方に問題を感じている。いろいろ出したものの一部だけが通る結果、それで残された問題をどうするか、あるいはどうなるかはまったく不明だ。具体的には、事務機構、技術センター、国際協力事務などは当初の案から落ちてしまった。
Q:主任という立場に居られたわけですが、学部当局が作った最初の概算要求案は見せてもらえましたか?
A:最終案は見せてもらえない。
主に私の関係する物 II を中心に話をしたい。
とにかく研究教育環境の悪化がはなはだしいところに、東大がうまくやったらしいという話を聞いて、少しの害には目をつぶって乗ろうという感じだ。今回の重点化それ自身については、内的要求とはいえないのではないか。
個々の問題についていうと、まず大講座制については、物 II では60年代に既に講座制からグループ制にしているので、可能と考えた。予算を考えると、助手の振替えで8講座から14講座相当に増やせるのは魅力だ。ただしすぐに助手を助教授にしない方がよいとの意見もある。
院生の定員については、マスターはたいていドクターにいくので、マスター定員とドクター定員を足して2で割るくらいだろう。教室の統合については、物 I、物 II、宇宙のゆるやかな連合を考えている。なお自己評価だが、物 II では教室発表会をやっていて、これが研究の評価や人事に反映されることになっている。つまり自己評価はすでにやっているわけだ。だいたい自己評価は自分のためにやるもので、外に発表するのは自己宣伝であり、変だと思う。
Q:マスターで人を絞ることになるが、できるものだろうか
A:やってみないとわからない。とにかく院生の定員を研究科全体で満たせばよいと思う。