2022.8
吉村洋介
化学実験 実験にあたって

原子量

原子量については中学校でも習いますが、 最近のインターバル表示などについて、 きちんと解説したものはあまり見かけません (IUPAC の CIAAW が教育機関向けに出している文書がありますが、 大部なこともあり、残念ながらあまり普及しているとは言えないようです)。 ここでは標準原子量の一覧とともに、 インターバル表示と常用原子量について紹介しておきます (単位と数値の取り扱いのはなし も参照ください)。

表1.標準原子量(通常物質 normal material についてのもの。最新版は CIAAW のサイトを参照 )。
元素原子量 元素原子量
1水素H[1.00784, 1.00811]m44ルテニウムRu101.07(2)g
2ヘリウムHe4.002602(2)gr45ロジウムRh102.90549(2)X
3リチウムLi[6.938, 6.997]m46パラジウムPd106.42(1)g
4ベリリウムBe9.0121831(5)X47Ag107.8682(2)g
5ホウ素B[10.806, 10.821]m48カドミウムCd112.414(4)g
6炭素C[12.0096, 12.0116]49インジウムIn114.818(1)
7窒素N[14.00643, 14.00728]50スズSn118.710(7)g
8酸素O[15.99903, 15.99977]51アンチモンSb121.760(1)g
9フッ素F18.998403163(6)X52テルルTe127.60(3)g
10ネオンNe20.1797(6)gm53ヨウ素I126.90447(3)X
11ナトリウムNa22.98976928(2)X54キセノンXe131.293(6)gm
12マグネシウムMg[24.304, 24.307]55セシウムCs132.90545196(6)X
13アルミニウムAl26.9815384(3)X56バリウムBa137.327(7)
14ケイ素Si[28.084, 28.086]57ランタンLa138.90547(7)g
15リンP30.973761998(5)X58セリウムCe140.116(1)g
16硫黄S[32.059, 32.076]59プラセオジムPr140.90766(1)
17塩素Cl[35.446, 35.457]m60ネオジムNd144.242(3)g
18アルゴンAr[39.792, 39.963]gr62サマリウムSm150.36(2)g
19カリウムK39.0983(1)63ユウロピウムEu151.964(1)g
20カルシウムCa40.078(4)64ガドリニウムGd157.25(3)g
21スカンジウムSc44.955 908(5)X65テルビウムTb158.925354(8)X
22チタンTi47.867(1)66ジスプロシウムDy162.500(1)g
23バナジウムV50.9415(1)67ホルミウムHo164.930328(7)X
24クロムCr51.9961(6)68エルビウムEr167.259(3)g
25マンガンMn54.938043(2)X69ツリウムTm168.934218(6)X
26Fe55.845(2)70イッテルビウムYb173.045(10)g
27コバルトCo58.933 194(3)X71ルテチウムLu174.9668(1)g
28ニッケルNi58.6934(4)r72ハフニウムHf178.486(6)
29Cu63.546(3)r73タンタルTa180.94788(2)
30亜鉛Zn65.38(2)r74タングステンW183.84(1)
31ガリウムGa69.723(1)75レニウムRe186.207(1)
32ゲルマニウムGe72.630(8)76オスミウムOs190.23(3)g
33ヒ素As74.921595(6)X77イリジウムIr192.217(2)
34セレンSe78.971(8)78白金Pt195.084(9)
35臭素Br[79.901, 79.907]79Au196.966570(4)X
36クリプトンKr83.798(2)gm80水銀Hg200.592(3)
37ルビジウムRb85.4678(3)g81タリウムTl[204.382,204.385]
38ストロンチウムSr87.62(1)gr82Pb[206.14, 207.94]gr
39イットリウムY88.90584(1)X83ビスマスBi208.980 40(1)
40ジルコニウムZr91.224(2)g90トリウムTh232.0377(4)g
41ニオブNb92.906 37(1)X91プロトアクチニウムPa231.03588(1)
42モリブデンMo95.95(1)g92ウランU238.02891(3)gm

g: 同位体組成が正常な物質が示す変動幅を越えるような地質学的試料が知られている。
m: 何らかの同位体分別を受けたために同位体組成が変動した物質が市販品中に見いだされることがある。
r: 同位体組成に変動があるために精度の良い値を与えることができない。
X: 安定同位体が1つしかない元素。

原子量と原子量の変動範囲による表示

元素の原子量は、他の原子と結合していない中性で基底状態にある 12C の質量を 12 としたときの相対質量として定義されています。 このことを明示するために比原子量と呼ばれることもあります。 原子量(分子量)の単位は 1 で、モル質量(単位は g mol-1 など)と混同してはいけません。

原子量の値(以下では通常取り扱う物質 normal material についての原子量 standard atomic mass を問題にします)は 単核種元素(フッ素など一つの安定核種からなる元素)以外の元素では、その元素を含む物質の起源や処理の仕方などによって変わることがあります。 以前はそうした問題を原子量の不確かさの形で処理されてきましたが、 (1) 測定精度と誤解される恐れがあり、(2) 原子量の値の分布は様々でガウス分布をするとは限らないといったことから、 2009年に国際純正・応用化学連合(IUPAC)は変動範囲 interval 表示を導入することに踏み切りました。 現時点で変動範囲表示が採用されているのは、H、Li、B、C、N、O、Mg、Si、S、Cl、Ar、Br、Tl、Pb の14 元素ですが(2022年現在)、 これはさらに拡大されていく予定です。

変動範囲に関わっては特に次の点に注意します:

なお変動範囲表示を導入した元素について、 表2のように原子量の典型的な値を示す形で常用原子量 conventional atomic weight も用意されています。 常用原子量は典型値として採用されたもので不確かさはありません(最後の桁の数字の±1の範囲に、 通常の物質中の原子量が収まるように決められています)。 同位体組成を問題としない通常の実験で使用するには、 こちらの方が便利でしょう。

表2.常用原子量と原子量の変動範囲表示
元素 常用原子量interval表示(4ケタ)interval表示(5ケタ)
1水素H1.008[1.007, 1.009][1.0078, 1.0082]
3リチウムLi6.94[6.938, 6.997][6.938, 6.997]
5ホウ素B10.81[10.80, 10.83][10.806, 10.821]
6炭素C12.011[12.00, 12.02][12.009, 12.012]
7窒素N14.007[14.00, 14.01][14.006, 14.008]
8酸素O15.999[15.99, 16.00][15.999, 16.000]
12マグネシウムMg24.305[24.30, 24.31][24.304, 24.307]
14ケイ素Si28.085[28.08, 28.09][28.084, 28.086]
16イオウS32.06[32.05, 32.08][32.059, 32.076]
17塩素Cl35.45[35.44, 35.46][35.446, 35.457]
35臭素Br79.904[79.90, 79.91][79.901, 79.907]
40アルゴンAr39.95[39.79, 39.97][39.792, 39.963]
81タリウムTl204.38[204.3, 204.4][204.38, 204.39]
82Pb(207) [206.1, 208.0][206.14, 207.94]

注:IUPACの原子量および同位体存在度委員会(CIAAW)は、変動範囲表示の有効数字の扱いにおいて下限値については端数切り捨て、 上限値は端数切り上げを推奨しています。


「実験にあたって」のページへ