last revised 2022.12 / 2022.8
吉村洋介
化学実験 実験にあたって

溶液の濃度の表現

化学ではいろんな種類の濃度の表現が用いられます。 元来、”濃度” は単位体積当たりの量(質量や物質量)で ”密度” と同義のはずですが、 化学では、「組成」を表す質量百分率なども「濃度」として通用させているところがあります。 ここではそうしたさまざまな濃度表現を A、B 二成分系について整理しておきます。 体積百分率なども扱う都合上、A、B は共に液体で、全組成で混合するものとします。

多様な濃度の表現を整理する方向で、 国際量体系 ISQ が整備されています。

成分 A (モル質量 MA g/mol。混合前の密度 ρA g cm-3) a g と B (モル質量 MB g/mol。混合前の密度 ρB g cm-3) b g を混合して、 V cm3 の溶液(密度 ρ g cm-3。ρ = (a + b)/V)を調製したとします。 ここで MA や ρA は、いずれも物理量ではなく数値です。

さて温度が分かっておれば水(純液体)の密度はわかります。 溶液の場合は、溶液の組成 b/(a + b) が分かっておれば、密度、成分の濃度が分かります。 ですから組成と濃度の対応が分かっておれば、 未知の溶液の濃度をその組成で表現できます。 溶液中の B の ”濃度” の表し方として、化学でよく使われるものに次のようなものがあります。

(1) 質量百分率(mass%、wt% あるいは w/w%などと表記される):
100 b/(a + b)
(2) 溶媒100 g あたりの溶質の質量/g:
100 b/a
(3) 溶媒1 kg当たりの溶質の物質量(質量モル濃度 molality):
(1000/MB)(b/a)
(4) 体積百分率(vol%あるいは v/v%などと表記される):
100 (b/ρB)/[(a/ρA) + (b/ρB)]
(100 (b/ρB)/Vで定義することもある )
(5) 物質量分率(モル分率):
(b/MB)/[(a/MA) + (b/MB)]
(6) 質量体積百分率(w/v% などと表記される):
100 b/V = 100 ρ b/(a + b)
(7) 溶液1 L当たりの溶質の物質量((容量)モル濃度 molarity):
1000 (b/MB)/V = 1000 ρ (b/MB) /(a + b)

この中で、(1) から (6) までは、厳密な意味での「濃度」(単位体積当たりの量)ではありませんが、 化学では通常、濃度と同等のものとして扱われます。 濃度には多種多様な表現法があるので、 どの表現を取っているかを明示しておくのがよいでしょう。 特に質量分率、モル分率などは単位が 1 で、単位を明示しても弁別できないので注意する必要があります (国際単位系 SI では ”mass%” といった単位の表記は許されません)。

このように多様な表現が用いられているのは、 主として目的によって便利な濃度表現が異なるからです。 たとえば (6) の質量体積百分率などは、 高校では出会わない表現で、 実質的には単位が g/dL の質量濃度と同じもので、 わざわざ「百分率」と呼ぶ必要はないように思えます。 たぶんこれは、実験操作で「1 mL の B を溶かして 5 mL にする」 「1 g の B を溶かして 5 mL にする」 といった操作が頻出しますが、前者が体積百分率 20 % であるのになぞらえて、 後者を「質量体積百分率」と呼んだのではないかと、 ぼくは思っています (薬局方では重さ、体積どちらでも、 こうした場合の溶液の濃度は (1 → 5) と表記されます)。 実際に溶液を調製する立場からは、体積か質量かは明確で、 ”数値” が重要になるのです。 なおこのように、 実際の操作に則した濃度の表現として、 「塩酸(1+3)」という表記に出会うことがありますが、 これは濃塩酸と水を体積比 1:3 で混合した塩酸のことです (JIS で行われる表記)。

あるいは2種の濃度の溶液を用意し、それを種々の割合で混合してその中間の濃度の溶液を調製する場合を考えましょう。 質量百分率を採用しておれば濃度 w1 mass%とw2 mass%の溶液を質量比 (w2 - w):(w - w1)で混合すれば、 濃度 w mass%の溶液を得ることができます(‘てこの法則’)。 他の表現では、混合比の決定はいささか厄介です。 また小学校でも習いますが x gの溶質を溶解する際、溶解度が溶媒100 gあたりの溶質の質量 y gで与えられておれば、 溶解に必要な最小の溶媒量は100 x/y gで与えられます。 他の表現では計算が少し厄介です。

もっと実用的な用途には、測定が容易な比重で濃度に替えることも行われます。 今日も食品関係でよく用いられるボーメ Baumé 度は水に対する比重を r として 144.3 × (1 - 1/ r) で定義されますが、 元来食塩水の質量百分率に対応するように、比容(比重の逆数)を換算したものになっています。 同様にシロップなどの濃度(糖度)については、Brix度(単位記号 °Bx)が用いられ、 ショ糖の溶液についてその質量百分率に等しくなるように定められています (Brix度の測定には、近年は測定の容易さから溶液の屈折率を用いることが多いようですが、比重を用いる流儀もあります)。

用途によってさまざまな濃度表現があるので、表現間の変換を求められる場合もしばしばです。 たとえば質量百分率 wB mass% とモル分率 xB の換算は

 MA(1/xB - 1) = MB(100/wB - 1) あるいは wA/wB = (MA/MB) (xA/xB)

の関係が成り立つことに注意して

xB = (wB/MB)/[(100 - wB)/MA + wB/MB]  = 1/[(100/wB - 1)(MB/MA) + 1]

あるいは

wB = (100 MB xB)/[MA (1 - xB) + MB xB] = 100/[(1/xB - 1) MA/MB + 1]

で行うことができます。 質量モル濃度 mB mol/kg と容量モル濃度 cB mol/L の換算は

cB = 1000 ρ mB /(1000 + MB mB) あるいは mB = 1000 cB/(1000 ρ - MB mB)

となります。


「実験にあたって」のページへ