pHは、溶液の酸性、塩基性の度合いを示す値で、概念的には次式で定義された値です。
pH = -log αH (1)
ここで αH は水素イオンの活量です。 しかし水素イオンを単独で取り出して調べることはできないため、水素イオンの活量それ自身を実際に測定することはできません。 したがって日本産業規格 JIS Z8802「pH測定方法」では、 「規格に規定したpH 標準液のpH値を基準とし、ガラス電極 pH 計によって測定される起電力から求められる値」として ”操作的” に定義されています。 つまり溶液 X の pH は、基準となる溶液 S の pH から次式で与えられるわけです:
pH(X) = pH(S) + (EX - ES) / k (2)
ここで EX は溶液 X、 ES は基準となる溶液 S についてのガラス電極の示す起電力。 k は比例定数で約 0.6 mV 程度の値を取り、 異なる pH の標準液を用いることで決定できます。
pH の測定に用いる電極には、通常、ガラス電極、比較(参照)電極、さらに温度補償電極を加えた三種類の電極が組み込まれています。
一般に2種の水溶液をガラス膜を介して置いた時、 溶液の pH の差に応じた電位が生じます。 これはガラス膜に含まれるナトリウムなどのカチオンが、溶液中の水素イオンと置き換わるためと考えられます。 こうしたイオンの交換は溶液中のカチオンであれば水素イオンでなくとも起きますが、 ガラス電極に用いられるガラス膜は、水素イオンに対する選択性が高く、 もっぱら水素イオンに対して応答します。 けれども pH 13 程度以上の、極めて水素イオン濃度の低い条件下では選択性が落ち、 低めの pH を与えるようになります(アルカリ誤差と呼びます)。 なお最近イオン応答電界効果トランジスタ(ISFET。Ion Sensitive Field Effect Transistor)を用いた電極の実用化も進みつつあります。
pH計の比較(参照)電極には、通常銀-塩化銀電極が用いられています。 電気化学的な測定では液絡部に塩橋を用いることが多いですが、 pH 計の比較電極の液絡部は、取扱いを容易にするため、たいてい多孔質のセラミックスなどでできていて、 液絡部での液間電位差の発生、比較電極の内部液の汚染を避けるため、 比較電極の内部液がゆっくり滲み出すような状態で使用することになっています。 測定中、比較電極の内部液補充口を開けておくのはこのためです。 なお近年、固体電解質あるいはゲルを用いることで、こうした問題をほとんど生じない電極も使用されるようになってきました(オープンジャンクション型)。 学生実験ではこのオープンジャンクション型をもっぱら用います。
なお温度補償電極は電極と呼ばれていますが、 実のところ温度計です。 (2) 式の比例定数 k の温度依存性(温度を上げると大きくなる)を補償するために用いられます。
学生実験ではpH電極と電位差計が一体となったハンディpH計と、 pH電極と電位差計が独立した比較的精度の高いpH計を使います。 ハンディpH 計は精度が pH ±0.1 程度、 精度の高い pH 計では pH ±0.01 程度です。 それぞれの pH 計の取り扱いについて注意すべき点をまとめておきます。
温度/℃ | シュウ酸塩 | フタル酸塩 | 中性リン酸塩 | ホウ酸塩 | 炭酸塩 |
0 | 1.67 | 4.01 | 6.98 | 9.46 | 10.32 |
5 | 1.67 | 4.01 | 6.95 | 9.39 | 10.25 |
10 | 1.67 | 4.00 | 6.92 | 9.33 | 10.18 |
15 | 1.67 | 4.00 | 6.90 | 9.27 | 10.12 |
20 | 1.68 | 4.00 | 6.88 | 9.22 | 10.07 |
25 | 1.68 | 4.01 | 6.86 | 9.18 | 10.02 |
30 | 1.69 | 4.01 | 6.85 | 9.14 | 9.97 |
35 | 1.69 | 4.02 | 6.84 | 9.10 | 9.93 |
40 | 1.70 | 4.03 | 6.84 | 9.07 | - |
50 | 1.71 | 4.06 | 6.83 | 9.01 | - |
60 | 1.73 | 4.10 | 6.84 | 8.96 | - |
70 | 1.74 | 4.12 | 6.85 | 8.93 | - |
80 | 1.77 | 4.16 | 6.86 | 8.89 | - |
90 | 1.80 | 4.20 | 6.88 | 8.85 | - |
注: 調製pH標準液の調製方法は「緩衝液」を参照。
温度/℃ | シュウ酸塩 (第1種) | フタル酸 (第1種) | 中性リン酸塩 (第1種) |
リン酸塩 (第1種) | ホウ酸 (第1種) | 炭酸塩 (第2種) |
0 | 1.666 | 4.003 | 6.984 | 7.534 | 9.464 | 10.32 |
5 | 1.668 | 3.999 | 6.951 | 7.500 | 9.395 | 10.24 |
10 | 1.670 | 3.998 | 6.923 | 7.472 | 9.332 | 10.18 |
15 | 1.672 | 3.999 | 6.900 | 7.448 | 9.276 | 10.12 |
20 | 1.675 | 4.002 | 6.881 | 7.429 | 9.225 | 10.06 |
25 | 1.679 | 4.003 | 6.865 | 7.413 | 9.180 | 10.01 |
30 | 1.683 | 4.015 | 6.853 | 7.400 | 9.139 | 9.97 |
35 | 1.688 | 4.024 | 6.844 | 7.389 | 9.102 | 9.92 |
40 | 1.694 | 4.035 | 6.838 | 7.380 | 9.068 | 9.89 |
50 | 1.707 | 4.060 | 6.833 | 7.367 | 9.011 | 9.83 |
60 | 1.723 | 4.091 | 6.836 | - | 8.962 | - |
70 | 1.743 | 4.126 | 6.845 | - | 8.921 | - |
80 | 1.766 | 4.164 | 6.859 | - | 8.885 | - |
90 | 1.792 | 4.205 | 6.877 | - | 8.850 | - |
注: 以前の JIS では、それぞれの標準液ごとにpHの値が指定された「規格 pH 標準液」という形で規定され、 各々に JIS 規格が存在しました。 各標準液に関する JIS 規格は認証制度への移行を踏まえ 2007年3月に廃止され、 2011年5月20日にはJIS Z8802 の改定が行われ JIS Z8802:2011となりました。 この表の値は標準液の pH の参考値(OIML文書R054-e81に記載の値)で、 実際に使用する標準液の pH は、個々の標準液に添付される認証値あるいは較正証明書で保証される形になります。