酸 HA の解離平衡 HA ⇌ H+ + A- について、
Ka = [H+] [A-]/[HA]
を酸解離定数と呼びます(溶液中のイオンの標準状態の濃度は 1 mol/L をとります)。 ここでは学生実験で出会う、 種々の無機酸塩基と有機酸塩基の酸解離定数を、 常用対数の負号を取ったもの pKa = -log Ka の形でまとめておきます。 いずれも特記する以外、水中 25 °C、イオン強度 0 での値です (CRC Handbook of Physics and Chemistry 2012 によります)。
なお電離平衡は一般に塩濃度に大きな影響を受けます。 本によっては、 イオン強度が 0.1 mol/L 等の場合の解離定数を掲載している場合もあり、 注意が必要です。 また A + H2O ⇌ HA+ + OH- (BOH ⇌ B+ + OH-)という水酸化物イオンの解離平衡について、 塩基解離定数 Kb = [OH-] [HA+]/[A] を考えることもありますが、酸解離定数と簡単な関係式が成り立ちます (pKb = pKW - pKa = 14.0 - pKa)。
表 1 に学生実験で出会う、種々の無機酸の酸解離定数をまとめておきます。
無機酸の場合、しばしばその酸分子の実体が明確でないことがあります。 二酸化炭素は水和した炭酸 H2CO3 の形ではなく、 もっぱら二酸化炭素 CO2 そのものの形で溶存しています (平衡に達するのに常温で 典型的には 0.1 s 程度かかるようです。 これを加速するのが、生物化学でお目にかかる炭酸脱水酵素)。 また亜硫酸も H2SO3 としてではなく、 もっぱら二酸化硫黄 SO2 として溶存しています。 また亜硫酸水素イオンの構造は主に H-SO3- で、 HO-SO2- というイオン種はほとんどないようです。
ここでは、分子種の間の互変平衡(CO2 + H2O ⇌ H2CO3 など)を度外視して総体として扱い、 典型的な分子式(H2CO3 など)で代表させて扱っています。 なおアンモニアについて ”伝統的” には、塩基型の NH3 で代表させていますが、 ここでは誤解がないように酸型のアンモニウムイオン NH4+ をとっています
名前 | 化学式 | 解離段 | pKa |
---|---|---|---|
アンモニア | NH4+ | 9.25 | |
炭酸 | H2CO3 | 1 | 6.35 |
2 | 10.33 | ||
シアン化水素 | HCN | 9.21 | |
ホウ酸 | H3BO3 | 1 | 9.27 |
2 | > 14 | ||
リン酸 | H3PO4 | 1 | 2.16 |
2 | 7.21 | ||
3 | 12.32 | ||
硫化水素 | H2S | 1 | 7.05 |
2 | 19* | ||
硫酸 | H2SO4 | 2 | 1.99 |
亜硫酸 | H2SO3 | 1 | 1.85 |
2 | 7.2 |
表 2 に学生実験で出会う、種々の有機酸の酸解離定数をまとめておきます。
有機酸の場合、しばしば問題になるのは、 アミノ酸の双極イオンのように、 水素イオンの付加脱離する部位ですが、 表中の分子については(アスコルビン酸の他は)あまり問題ないでしょう。 なお表 1 のアンモニア同様、アミノ酸等について、 酸型の分子種を化学式にとっています
名前 | 化学式 | 解離段 | pKa |
---|---|---|---|
酢酸 | C2H4O2 | 4.756 | |
安息香酸 | C7H6O2 | 4.204 | |
シュウ酸 | C2H2O4 | 1 | 1.25 |
2 | 3.81 | ||
乳酸 | C3H6O3 | 3.86 | |
L-酒石酸 | C4H6O6 | 1 | 2.98 |
2 | 4.34 | ||
L-アスコルビン酸 | C6H8O6 | 1 | 4.04 |
2 | 11.7* | ||
フェノール | C6H6O | 9.99 | |
オキシン | C9H8NO+ | 1 | 4.91 |
2 | 9.81 | ||
トリス | C4H11NO3 | 8.071 | |
グリシン | C2H6NO2+ | 1 | 2.35 |
2 | 9.78 | ||
アデニン | C5H5N5+ | 1 | 4.3 |
2 | 9.83 | ||
チミン | C5H6N2O2 | 9.94 |