酸塩基指示薬の酸解離平衡
2008.1.2.

4.おわりに

この実験課題は、 小学校の理科、あるいはレモンティーの色の変化など、 身近に親しんできたであろう酸塩基指示薬の変色に取材して、 溶液中の種々の化学種の間の平衡、 そして共存イオン効果(塩効果)など電解質溶液の特質の一端に触れ、 その中で吸光光度法の手法を会得してもらおうという、 欲張った課題構成になっています。 そのため、学生さんたちはなかなか当方の意図する課題の狙いに到達することなく、 未消化に終わることも多いようです。 そこで、その中でもちょっと厄介な共存イオン効果について、 うそにならない程度に噛み砕いた話などを用意してみました。

デバイ-ヒュッケル理論に、どのように、どこまで触れるかは難しいところです。 ここではデバイ距離をイオンの作る電場の遮蔽距離として天下り式に導入し、 それとボルン Born の式(ドルーデ-ネルンスト Drude-Nernst の式と言ってもよい)によるイオンの水和エネルギーの表式を組み合わせることで、 解釈するという形をとることにしました。 これは非正統的な解釈で、つつくといろいろ問題が出てくる(たとえば「エネルギー」で「自由エネルギー」を扱う)のですが、 なんとか「うそにならない程度」に取り繕ったつもりです。

酸塩基指示薬の変色(あるいは染料の色のpH依存性)に関しては、19世紀~20世紀初頭にかけて膨大な研究が行われたようです。 たとえばここで取り上げた、塩の存在による pH 変色域の変化(「塩誤差」 salt error と呼ばれます)、 指示薬自身の解離による pH の変化(「酸誤差」)、 タンパク質との相互作用による変色域の変化(「タンパク誤差」)、 などは古くから知られており、 われわれがごく普通に使っている pH 試験紙には、そうした知見がふんだんに盛り込まれているようです。 こうした研究の厚みも含めて、学生諸君に酸塩基指示薬の世界を紹介したくもあるのですが、 ぼくの力ではとても及びません。 また共存イオン効果についての実験結果の説明も含め、 とんでもない誤解などもあるかもしれません。 いろいろご教示いただければ幸いです。


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