写真 1-1. CHEMUSB 4 分光光度計は文庫本サイズ |
CHEMUSB 4は写真のように文庫本サイズで重さは約500 g。 片手で持てる装置で、制御用のPCの方が嵩張ります。 以前は重さ20 kg程度の筐体と机1つを占領する分光光度計を使っていました。 それを重さは1/40、嵩(体積)は1/100程度、(そして値段は定価で半分以下)の装置で置き換えられるのですから、 多人数が限られたスペースと予算で実験する学生実験(当化学教室の3回生の実験の場合、50~60人が300 m2ぐらいの部屋で実験)にとって、 メリットは極めて大きいものがあります。
この文庫本大の装置に電源ケーブルをつなぎ、 パソコンとUSBケーブルで結べば、測定が可能になります。 観測・制御用のソフトとして、OceanOptics社からはSpectraSuiteとOvertureという2種のソフトが提供されています。 Overtureは数年前に発表されたもので、SpectraSuiteの多様な機能が絞り込んであり、 学生実験で吸収スペクトルを測る分には手頃です。 ただし時間変化を追うことができないのが難点で、当教室では現在もっぱらSpectraSuiteを使用しています。
CHEMUSB 4は、分光光度計(USB4000)と光源・セルホルダー(USB-ISS-UV-VIS)を一般的な用途(波長範囲200-850 nm、分解能~1 nm)に合わせて組み合わせたものです。 分光光度計USB4000はCCD素子を用いて一度に幅広い波長範囲のスペクトルを得ることができます(3648個の受光素子がありほぼ0.2 nm間隔でスペクトルを検知)。 単色化した光を用いる通常の吸光光度計では、可視域の波長を走査するのに速くて1分はかかりますが、同等のスペクトルを得るのに1秒かかりません。 カラムクロマトで多数の分画の吸収スペクトルを取る実験などでは、この手早さはありがたい。 とはいうものの、余りに簡単にスペクトルが取れるので、一つ一つのスペクトルをきれいに確実に取るという姿勢に欠ける学生が出てきてしまうのは残念なところです。 ここは指導力で補わないといけないんでしょうが・・・
図 1-1.カリウムの輝線スペクトル |
図 1-2.ナトリウムの輝線スペクトル |
なお受光側で0.2 nm間隔で検知するからと言って、波長の分解能は検出器に入るまでの回折格子(グレーティング)等によって決まっていて、 CHEMUSB 4の設定ではおよそ1 nm程度の分解能に設定されています。 図にはCHEMUSB 4の分光光度計(USB4000)を用いてナトリウムとカリウムの炎色反応(発光スペクトル。2P → 2Sの遷移に相当)を調べた結果を示してあります。 カリウムの輝線の分裂幅3.4 nm(766.5 nmと769.9 nm)は分かりますが、ナトリウムの輝線の分裂幅0.6 nm(589.0 nmと589.6 nm)はちょっと分かりません。 ですからCHEMUSB 4でスペクトルを取るにあたっては、各受光素子から出力されてくるシグナル5個分程度(~1 nm)を平均化した形で取得する (ソフトでは「ボックスカー幅」(SpectraSuite)、あるいは「smooth」(Overture)で指定)のが適当なようです。
図1-3. CHEMUSB 4 分光光度計の光源の強度スペクトル。 青はD2ランプ、黄土色は白熱球ランプ単独でのスペクトル。 赤は両者ともに使用したスペクトルで、両者の強度比はソフト(SpectraSuite)の側から調整可能。 |
CHEMUSB 4の光源(USB-ISS-UV-VIS)はD2ランプと白熱球型ランプから構成されています。 図にはCHEMUSB 4で測定した、光源からの光のスペクトルを示しました。 白熱球型ランプの波長は若干高波長側(温度が低い)に位置しています。 これは光源をコンパクトにする関係で電力を低めに抑えているためかもしれません。 また480 nm、570 nm、760 nm付近の強度の大きな変化をみると、 内部的に何らかの強度の調整が行われているようです。
さらに通常の吸光光度計では、光源と試料の間にグレーティングが入りますが、CHEMUSB 4では試料と検出器の間にグレーティングが入ります。 このため通常の吸光光度計では試料からの発光スペクトルを得ることはできませんが、CHEMUSB 4では可能で、蛍光光度計としても使用可能です。 このことも幅広い事象に対応する必要のある学生実験では大きなメリットです。
写真 1-2. CHEMUSB 4 の分光光度計部分(USB4000)は光源部(USB-ISS-UV-VIS)と切り離して単独で使用可能。 なおUSB4000は元来光ファイバーを利用するように作られた分光光度計。 |
なおCHEMUSB 4の分光光度計(USB4000)は光源部(USB-ISS-UV-VIS)と切り離しても単独で使用可能です。 USB4000を単独で使用する場合にはUSBからの電力供給で動作し、外部電源は必要ありません。 図1の輝線スペクトルは、ガスバーナーで起きる炎色反応を、USB4000単独で使用して取ったものです。 学生実験でこうした課題を実施するのは教育的とも思うのですが、 ネジの取り外し・取り付けにともなうトラブルが心配なので、原則、両者を切り離さずに使用することにしています (この用途には以前導入した、同じくOceanOptics社製のRedTideを2回生向けの実験で使用しています)。 あまりこうしたスペックだけ並べても、抽象的に過ぎるでしょうから、少し実際の実験に即してCHEMUSB 4を紹介しましょう。