銅はヨウ素滴定によって定量します。 ここで紹介する定量操作は、「鉱石中の銅定量方法」JIS M 8121 から銅の分離操作を省いたものに相当しています。 (元のJISには、ハイポを加え加熱して硫化銅として沈殿・分離し、硝酸・硫酸・過塩素酸と加熱して再溶解という操作が入っています。) このため鉄が共存したりするとプラスの誤差として出てくることになりますが、今回の試料には鉄がほとんど含まれていないので問題は出ていません。 なおJISも含め、通常銅の定量には電解重量法を用いるのですが、白金電極を調達するコストを考えると手が出ませんでした。
銅のヨウ素滴定は、銅(II) がヨウ化物イオンと反応して、ヨウ素を遊離し自身はヨウ化銅(I)になることを利用し、遊離したヨウ素をハイポで滴定することによって銅の量を求めるというものです。 反応式は次のように書けます。
I2 + 2Na2S2O3 → Na2S4O6 + 2NaI
当初はハイポの結晶を純品と仮定してよいことにして、標定はオプションとして行ってもらっていました。 しかし銅の含量が低めに出ること、そして実際に標定してみるとハイポの純度が 101~103 %(結晶水が一部失われているようです)であったことを踏まえ、2000年度から全員にやってもらうように変更しました。 ハイポの標定はJISでは銅の標準溶液を作って標定することになっています。 ただし標準の金属銅から銅の標準溶液を作る操作は、洋白の試料溶液を作る操作とさして変わらず、単調な操作を強いることになるのでハイポの標定は2004年度まではヨウ素酸カリウムを標準物質として行っていました。 しかしヨウ素酸カリウムを標準物質とする標定法の誤差が大きいことが学生実験の発表会で指摘されたことから、2005年度は硫酸銅五水和物を標準物質として行うように設定することにしました。
準備する溶液は次のとおり:
(2)硫酸銅標準溶液(0.02 mol/L): 硫酸銅五水塩(CuSO4· 5H2O 式量 249.68)約0.5 gを精確に秤量しイオン交換水に溶かして精確に100 mLにする。
(3)ハイポ溶液(0.02 mol/L): チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3・5H2O、分子量 248.18)約 1.24 g を秤量しイオン交換水で 250 mL にしたもの。
(4)デンプン溶液: 可溶性デンプン1 gにイオン交換水10 mLを加えて混和、さらに熱イオン交換水 100 mLを加え1分間煮沸したもの。
(5)酢酸緩衝液: 酢酸 6 mLと酢酸ナトリウム三水塩 14 gをイオン交換水に溶かして50 mLにしたもの。
ハイポ溶液の標定の手順は次のとおりです:
(2)褐色になった溶液を、調製したハイポ溶液で滴定する。液の色が淡黄色になった後、デンプン液を数滴加える。さらに滴定を続け、ヨウ素デンプンの青色が消えた点を終点とする。
そして銅の滴定の手順は次のとおりです:
(2)ヨウ化カリウム溶液約 10 mL を加え 0.02 ml/L ハイポ溶液で滴定する。終点付近になったらデンプン液数滴を加え、ヨウ素デンプンの青色が消えた点を終点とする。
銅のヨウ素滴定は、学部時代に何ヶ月か毎日のようにやっていたので、個人的にはとても懐かしい滴定です。 この滴定はヨウ化銅の沈殿ができて溶液が濁り、ヨウ素がヨウ化銅に吸着するためか沈殿も黄色みがかかっていたりして終点の見極めがやっかいですが、結構安定した結果が得られます。
なお滴定の結果、ヨウ化銅の沈殿を含む廃液が出ますが、過剰のハイポ(固体)を加えて錯体を作らせて沈殿を溶解し、通常の重金属廃液として処理することにしています。 しかしこの手法では強酸性になるとハイポが分解してイオウが沈殿し、さらに硫化銅が生成することになります。 現在のところ、廃液タンクに入れる時点で清澄な溶液であればOKということにして目をつぶっているのですが、対策が必要なところです。
ハイポの標定をヨウ素酸カリウムを標準物質として行うよう際の操作は以下のようなものです。
I2 + 2Na2S2O3 → Na2S4O6 + 2NaI
(2)(1)に 1 mol/L 塩酸溶液約 2 mLを加え、よくかき混ぜて5分間以上放置する。
(3)褐色になった溶液を、調製したハイポ溶液で滴定する。液の色が淡黄色になった後、デンプン液を数滴加える。さらに滴定を続け、ヨウ素デンプンの青色が消えた点を終点とする。